フォビアコンプレックス2 (ページ44)

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第八十八話　ドロシアページ44

目の前の少年が、青ざめた顔をして、脇腹に手をやっている。そこからはさらさらとした血液と、おびただしい量のどろどろとした内臓が溢れ出ていた。

「フラム、フラム！しっかりして！」

　少年の兄弟が、必死に語りかける。千切れた内臓を少年の体内に無理矢理押し戻そうとしていた。やぶけたぬいぐるみの綿を詰め戻すかのように。それと違うのは、詰め戻そうとしているのは綿でなく内臓である事と、このままでは彼は死ぬという事だけ。

　私はふるふると首を横に振る。どうして、どうしてこうなったの？

　私達レジスタンスは、中央区に突入していた。女王フォビアの核であり、フォビアそのものであるここ中央区を制圧すれば、女王による地底世界の支配は終わる。

　そう、そのはずだったの。

「……大丈夫だヨ、兄さん」

　フラムは口から血を吐きながら、そう言う。

　このままなら、彼は死ぬだろう。出血が多すぎるし、何より、内臓がもうだめになっている。倒壊したAIメモリーの山に押し潰されたそれは、もう二度と使い物にはならない。唯一助かる道があるとすれば移植手術くらいだろう。

　……。

　ポシェットの中を見る。裁縫道具がある。マッチと蝋燭がある。ポンプとチューブも。他に小物がいくつか。これだけあれば十分ね。

　こんな時にどうすれば良いか、私はよく知っている。医療用家畜人として、教わっている。

「ブラウ、フラムを抑えつけて。フラム、痛いだろうけど我慢してね」

　言って、私はポシェットの裁縫道具セットからハサミを取り出す。マッチで蝋燭に火をつけて、ハサミの刃をよく熱した。それが終わったら、一瞬躊躇って、そして私は自分の脇腹に、ハサミを突き立てた。

　じゅう。

　肉の焼ける、香ばしい匂いがする。思っていたよりは痛くないわね。いえ、ただ感覚が追いついていないだけだわ。私は今のうちにと刃を動かす。皮膚を寸断して、内臓を引き抜いた。

　引き抜いた内臓、それとフラムの内臓を更に寸断し、取り替える。医療用家畜人は、移植の際に患者に拒絶反応が出ない特殊な内臓を持つ。

　溶けた蝋を糸に垂らして、それをハサミと同じように熱した針に通す。寸断した部位を縫い合わせていって、そして皮膚をつげ変える。不足しているであろう血液も補充する。ポンプで私の血液を吸い上げて、それがチューブからフラムに注がれていく。