フォビアコンプレックス2 (ページ42)

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第八十六話　エーナページ42

私は妹を見る。彼女は瞳を閉ざして、穏やかな顔をしている。美しい顔立ちもあいまって、まるで女神の彫刻みたいだ。

　いつの間にか、ここには私以外の誰かが住み着いていた。手足のない少女、腐敗した少女、淀んだ目をした少女。そして何となく、私は彼女達を妹として扱うようになっていた。彼女達も、私を姉と呼び、慕ってくれた。

「エーナ、ここって研究施設跡地みたいなんだけど、ここの近くに地下シェルターがあるって。そこにはたくさんの人がいるんだってよ、ほら」

　手足のない妹のディーオが、机に広げた地図を見せる。風化がひどくてほとんど読めない。かすかに、この研究施設の名前のようなものと、地下シェルターと思わしき建物の記号があるだけだ。

　お馬鹿ね、わざわざ地図なんて探さなくても、シェルターは窓からでも眺められるくらいのところにあるのよ。そう言ったのは淀んだ目の妹。腐敗した妹が、きゃっきゃと笑った。

「もう、笑わないでよ。それでね、この施設の真下に、地下があると思うの。ねえ、行ってみたりできないかなぁ？」

　ディーオは怒っているみたいにそう言った。でも、その目は隙なく私達を見つめている。

　ここにいる皆は、いつの間にかここにいた。前どこにいたのか、自分が誰なのかすら分からない。名前だって、適当につけたものでしかない。

　けど、ディーオだけは違うようだった。手足のない彼女は、私達が知り得ない物事も知っていた。彼女は何も覚えていないと言っていたけど、多分、嘘ね。彼女は今、私達に何かを期待している。しかし、それが何かを私達は知らない。

　可愛い妹相手に疑ってしまうのは、心苦しい。もし彼女が本当に何も覚えていなかったら？私を信じたい。だから、この猜疑心も忘れてしまおう。

「地下におりたら、ここがどこにあるかすぐ分かるよね。根っこを探すだけだから」

　この施設に絡みつく巨大な植物。それの根っこを探し出せば良い。腐敗した妹が、なるほど、お姉ちゃん頭良い！と賞賛する。ディーオは胸を張って見せた。