フォビアコンプレックス2 (ページ29)

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第七十六話古泉沙梨ページ29

本当は、一息つけるはずだった。

三徹で防衛プログラム作って、あー疲れた、一仕事終えたし寝よ。
とかするつもりだったんだ。

なのに、なのに、なのに、あぁ、クソ。なんでこんな事になってるんだ………

東区でミュータントが脱走したらしい。現在でも多くの被害者が出てるし、薔薇宮さんに置かせてもらった東区の監視カメラにもその悲惨っぷりは映っていた。正直、脱走の確率が頭から抜け落ちてた。
飛び散る血や肉塊、一度聞いたら頭からこびりついて離れない悲鳴。思い出すだけで吐き気が込み上げる。
勿論その脱走の事も西区や南区に知れ渡ってるらしく、この世界では今混乱が巻き起こっている。
そして情報を得る為に俺はパソコンの前に座ってる訳だが、防衛プログラム作成した分を合わせて五徹目に突入してしまっている。
後で何かしら言われるの承知で東区のありとあらゆる施設の監視カメラをハッキングし、そのデータを違うパソコンに移す。その繰り返しで、俺の腕から下はとうに感覚がなくなっていた。

それにしても、東区は一体どうなってやがるんだ…、こんな数のミュータント収容してて、寧ろよくここまで持ったな……。

「あーーークソ…。……コレ、西区と南区もどうなってるか見なきゃいけないか…？？そろそろ俺過労死するんじゃないのォ…？？？」

正直に言って人手が足りない。
部下総動員でデータを整理させてるが、仕事は減るどころか増える一方だ。

ふと、元部下であり、友人である彼女を思い出す。
手の動きが一瞬止まったが、恐らくもう会えない事を考えて、それを振り切るかのように動きを再開させる。
もう運命が決まってしまっているなら、選ばなかった未来は想像しない、だってそれで今が変わる訳じゃないんだから。

気をそらすように、残っていたエナジードリンクを全て飲み干す。
パソコンと対峙し、また眉間にしわを寄せながら作業が始まる。

……………多分、この時の俺はすでに悟っていたんだろう、この世界は緩やかに破滅に向かって流れているのを。

それでも前を向いてこうして作業を続けたのは何故か、それは俺にも分からない、徹夜で判断が鈍っていたのだろうか。
……………いや、きっと違うな。

何故こうして諦めきれないのかを嫌という程理解する。
こうして負けが決まっているのに、勝ちを諦めきれずに偶像に手を伸ばすのは、きっと俺の悪い癖なんだろう。