第三十八話 クランクハイト ページ39
「……なるほど。阿喰のヤツ、東区に逃げ延びやがったか」
今現在、オレは右手に書類、左手にサンドイッチ、そして両足は机の上と、他人に見られたらすぐ叱られる姿勢で仕事に打ち込んでいた。最近は他区でも騒動が多いし、ウチも医療サービストップの不祥事が発覚したばかり。西区で長く生きていようと、こういう態度をとりたくなる日もある。
「しっかし、なんで店で売ってるピクルスって死ぬほど不味いんだろうな」
今日のサンドイッチの具はベーコンとチーズ、それにピクルス。正直言って漬物の類はあまり好きではなかったのだが、妻の手作り弁当に入っているものは信じられない程美味なのだ。
読んでいた書類を床にある紙の山の頂上に置き、昼食をゆっくり味わって食べようかとしていると、誰かがドアをノックする音がした。
「クランクハイト、いるかしら?」
ルースの声だ。オレが慌てて机から足を下したのと、ルースが部屋に入ってきたのはほぼ同時だった。
「……あの……せめて返事があるか確認してから入ってきてくださいませんかねェ?」
「貴方が留守なら勝手に入って必要なものを取っていくつもりだったから、つい。食事中に邪魔をしてしまったようね」
相変わらずの調子の上司に、思わずため息を吐いた。
「……浮かない顔ね」
「いつものことですよ。それで、用件はなんですか?」
「東区で新たに発見されたゼロ生物について何かご存じなくて?ゼロ=アントリオンの始祖……貴方がアルティスに所属していた頃、特に可愛がっていた個体と関係があるのではと思ってね」
師の言葉に、記憶をぐるぐるとめぐってみる。ルースはさらりと口にしたが、アルティスに所属していた頃、つまり地下都市ができる前、というのは数百年も前の話だ。忘れがたい出来事があったとはいえ、その「忘れがたい出来事」の記憶さえ正確に思い出すことはできない。まして、それ以外の些末な事象なんて。
「……少し思い出したり記録をあたったりしてみます。暫く時間がかかると思いますが」
「それはどのくらい?」
「そう、ですねェ……デザートのチョコプリンを食べ終わったら、作業に取り掛かります」
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ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年11月13日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年11月13日 19時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 終わりました! (2019年11月12日 21時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
ミクミキ(プロフ) - 更新します! (2019年11月12日 20時) (レス) id: eada72cfbe (このIDを非表示/違反報告)
キューブ(プロフ) - 更新しましたー (2019年11月9日 22時) (レス) id: ed034718e4 (このIDを非表示/違反報告)
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