フォビアコンプレックス (ページ17)

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第十六話　薔薇宮ページ17

「なぜ会えないの？！」

　ぱしぃん、と、大きな音を立ててそいつの顔面を殴打する。べきょりと骨が折れる音がしたかと思うと、その首はもう吹っ飛んでた。

　服が血で汚れたけど、それどころじゃないわ。私は舌打ちしながら、首の断面を眺めていた。しばらくすると、再生してくる。当然よ、だってこいつはウンディーネ。不死身のゼロ生物。この程度じゃ死なないわよ。

「やめてください、服と廊下が汚れるから」

　こいつ……レヴィアタンはうざったそうにしている。私はその頭を片手で掴みあげて、もう片手で胸元に手刀を叩きつける。

「私は妹に会いたいの。フィーと……ノスフェルトゥと会わせなさい」

「だめですよ」

　ああ、腹立たしい！頭を少しずつ圧縮させていきながら、私はレヴィアタンが持つ、魚の下半身を蹴り上げた。しかし、ぬめぬめとした感触が伝わるだけだった。

　レヴィアタンは痛みをまったく感じていないようで、腕が変異して発生したひれを私の肩に置く。

「３５９８はまだ治療中です。今からの面会は命に関わります。それに、３５９８や１１４６との面会は東区がある程度発展してからだと約束しましたよね？」

　……確かに、そういう約束はしたけど。でも、もうずっと会えてないのよ？あの子の声も、あの子の香りも、ずっと感じていない。

　私にとって、あの子はよすがだった。希望だった。あの子の存在だけが、私の存在意義だと思っていた時期さえあった。夫だってそう。けど、レヴィアタンはそれをまるで知らないかのように、あの子や夫の事を私から遠ざける。

　知らないわけがないのに。

「そろそろ帰ってもらわないと、あなたの正体、ばらしちゃいますよ？」

「……ちっ！」

　私がアルラウネである事は、まだ女王に知られていない。しかし、これをもし女王が知ったら、私は処分されるだろう。私が死んだら、あの子や夫を救える可能性が激減してしまう。それだけは避けなければならない。

　私は渋々レヴィアタンを地面に叩きつけ、そして背を向ける。

　待っていてね。私が絶対、助けてあげるからね。