フォビアコンプレックス (ページ41)

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第四十話　ローザページ41

私達の目的はただ一つ。妹と夫を取り戻す事だけ。

　私は片割れの薔薇宮と協力して、二人を取り戻すためにいろんな事をしたわ。優秀な家畜を生産して利益をあげたり、邪魔な人間を始末したり。

　最近は、薔薇宮の新しい身体を探したりもしたわね。彼女の肉体はだいぶん脆くなってきているし。ちょうど良い身体があるから、それを探しているところなの。

　私達の正体はアルラウネという寄生植物だ。特別な人間の肉体を奪って、殻にする。養分にもなる。けど、相性が悪すぎると相手も私自身も死ぬし、相性が良くてもいつかは軋みが出てくるのだ。私のように肉体との完全適合ができたのは、よほど相性が良かったからに他ならない。

　まあ、それはさておいて。

「しばらくぶりの散歩は心地良いわねぇ」

　羅光公園名物である、大きな薔薇の根を眺めながら呟く。

　あの薔薇も実はアルラウネ。だけど、彼女はもう動いていない。ううん、生きてはいるのだけど、あまりに大きくなりすぎて、動けないのだ。

　アルラウネ特有の繁殖能力も失った彼女は、ただの無力な植物……いえ、優美な飾り物としてそこにいる。

　近寄って、しげしげと眺めてみた。鮮やかな緑色。植物の色だ。既に枯れているとは、まるで思えないくらいに生き生きとしている。

　なんて美しいのかしら。私はそう良いながら、その根に触れようとして……。

「見つけたぞ！卑しい牧場女のローザ・グローラめ！」

「……え？」

　醜い叫び声と共に、背中に激痛が走る。振り向くと、そこには見知らぬ男がいた。そして、私の背中には、一本のナイフ。

　悲鳴をあげようとはしなかった。痛かったのは、一瞬だったから。ゼロ生物であるアルラウネとしての再生能力があれば、この程度はすぐに戻るから。

　けど、肉体の傷は癒えても心の傷はそうもいかない。

　襲われたショックで、ふらつく。一歩、二歩。べしゃりと、薔薇の根に身体を叩きつけた。

　すると、どうだろう。

　倒れた先の根が、裂けた。断面はひどく肉感的で、まるで植物らしくない。

　薔薇は、枯れていなかった？

　私が最期に考えていたのは、そんな呑気な事だった。