117話 ページ21
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ショックなんて言葉で表すことが出来ない。
目の前で、母が堕ちて行った。
鈍い音と共にコンクリートへ赤い鮮血が広がっていくあの光景を目にして、誰が冷静でいられるであろうか。
母は頭部強打の即死だった。
外科医の先生からそう聞かされると、父は膝から崩れ落ち、ボタボタと大粒の涙で床を濡らした。
母の名を呼び、どうして、なんで、とまるで子供のように父は泣き続けた。
A「...ぁ、」
声が枯れて上手く言葉が出ない。
泣きたいのに涙が出ない。
手足が震えて、もうこの現実という名の地獄から逃げ出してしまいたいくらいだった。
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どれくらい時間が過ぎたのだろうか、父がゆっくりと立ち上がり、「一度お家へ帰ろうか」と呟いた。
わたしは小さく頷いて、父の手のひらを握る。
父の手と触れていない方の手で、先程もらったばかりのクマのぬいぐるみを抱きながら。
わたしはそっと乗用車の後部座席へと乗り込み、ぬいぐるみをきゅっと握る。
瞳が虚ろな父の横顔を見て心が締め付けられた。
父「.....」
父は車を動かして公道の自動車の波へ入り込んでいく。
わたしは目を見開いた。
だって、信号が放っていた色は赤色だったから。
目の前には、わたし達が乗っている乗用車なんかよりもはるかに大きいトラックが迫っていた。
A「...え.....お父さん...?...ねぇお父さん、前、お父さ、」
父がわたしの声に気が付く前に、わたしは酷く重い衝撃を感じて声を発することが出来なくなった。
視界がコマ送りに感じる。
ぐしゃり、という鉄が潰されるような音が聞こえた。
シートベルトをしていたが、衝撃により壁の部分へ頭をぶつけてしまい意識が遠のいていく。
気を失うほんの僅かに前、わたしの両目に写っていたのは、ハンドルから手を離しダラリと腕をおろした父の姿と、赤く染まったクマのぬいぐるみだった。
わたしはプレゼントをもらうはずの誕生日に、最愛の家族を2人も失ったのだ。
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奏奏奏(プロフ) - きぇぇぇぇ!!さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきます! (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - レナさん» ありがとうございます!励みになります´`* (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
きぇぇぇぇ!! - ラジエーションハウスは大好きな作品(?)なので頑張ってください!(?) (2019年7月30日 17時) (レス) id: 5d428d39a9 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 待ってました。これからも頑張ってください。 (2019年7月16日 22時) (レス) id: 869c734d75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏奏奏 | 作成日時:2019年7月16日 19時