110話 ページ14
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五十嵐「...角度を変えて追加撮影する必要があったんです。」
僕らは蛭田夫婦を個室へと案内し、話し始めた。
真貴「...それで.....」
彼女は検査の結果を怯えるように尋ねると、僕はタブレットを見せながら伝える。
五十嵐「右の乳房に2cmを超えるギザギザのしこりがあります。」
真貴「...じゃあやっぱり、」
ガンなんですか、と言うつもりであっただろう彼女の言葉を遮って伊東さんは続ける。
A「放射線科医はマンモグラフィの画像を見る時、その腫瘍の見た目を"顔付き"と表現します。
...悪性の腫瘍はギザギザで、周りの皮膚に引き攣れを起こすので"顔付きが悪い"と言うんです。」
そこまで伝えると、再び蛭田さん夫婦は表情を曇らせた。
A「...確かに蛭田さんのしこりは顔付きが良くありません。でも、しっかりと見つめると違う顔が見えてきます。」
伊東さんの説明に頷き、僕は詳しく話し始める。
五十嵐「乳ガンの場合、コアにはっきりとした濃度があります。蛭田さんのしこりにはコアが無く、中心が正常と同程度に見えます。ガンの症状の1つである石灰化も見られません。」
隣に腰掛ける伊東さんは少し間を空けてから発した。
A「.....これは"繊維化が主体の病変"...CSLというもので悪性ではありません。」
すると、伊東さんはぱっと顔に笑顔という仮面を被せた。
A「CSL...RSL(Radical Sclerosing Lesions)とも言いますが、とても珍しい良性の腫瘍です。普通は治療の必要はありませんので...私達の所見とすれば心配はないと思いますよ...!」
彼女は笑顔でそれを告げると、蛭田さん夫婦は息を吐き、涙を流した。
安心し切ったのだろう、それはとても温かいものだった。
五十嵐「...一見、そうは見えなくてもしっかりと見つめれば優しいことがわかる。...そういうケースがあるんです。」
蛭田夫婦「ありがとうございました...!!」
僕は頬を濡らしながら手を握り合う2人を見て、ゆっくりと表情を綻ばせた。
それと同時に、1つの拭い切れなくなった疑問が生まれたことに気が付く。
CSLは、伊東さんにとってどんな関わりがあるのか、ということを。
僕は隣で微笑んでいるように
彼女の瞳は光などあるはずもない程に酷く黒く、そしてそれ自身に彼女が呑まれてしまいそうだったのだ。
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奏奏奏(プロフ) - きぇぇぇぇ!!さん» ありがとうございます!これからも頑張っていきます! (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
奏奏奏(プロフ) - レナさん» ありがとうございます!励みになります´`* (2019年7月30日 18時) (レス) id: 681665cbc9 (このIDを非表示/違反報告)
きぇぇぇぇ!! - ラジエーションハウスは大好きな作品(?)なので頑張ってください!(?) (2019年7月30日 17時) (レス) id: 5d428d39a9 (このIDを非表示/違反報告)
レナ - 待ってました。これからも頑張ってください。 (2019年7月16日 22時) (レス) id: 869c734d75 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:奏奏奏 | 作成日時:2019年7月16日 19時