８話 ページ8
このまま鬼が来なければ一番良かった。しかし、そううまくいかない。
鬼は息を荒げ、唸りながら私を探している。
手を合わせ、見つかりませんように、神様…と普段は信じてすらいない神様に、助けを乞うた。
「見つけたァ」
「ひっ…！」
都合のいい私を神様は助けてくれなかった。物置小屋の戸は開けられ、鬼が侵入してきた。
逃げようにも唯一の逃げ場の道を塞がれてしまっている。それに恐怖で足がすくんで逃げられない。
後退り鬼から距離を離すも、焦らすように徐々に距離を詰められる。
殺される。１ヶ月前にも殺されかけているのにも関わらず、鬼をこの目で見たのに存在を信じず、警戒心なく夜を出歩くからだ。
だからってここで殺されるの？私、何かした？
母の頼みを断らなかったから？鬼の存在を信じなかったから？明人さんを怒らせてばかりだから？そのバチが当たったのだろうか？
そんなの殺される理由にならない。そんなの、理不尽だ。
このままだと殺されると改めて意識した時、ふと怖いという感情より怒りの感情の方が大きくなってきていた。
恐怖が消えた今、私は冷静になった。
「痛くないように、してやる…からな…？な？だから、俺に食われてくれ…」
襲いかかってくる鬼に後退りした時に触れた物を手に取り、鬼の喉元を切り裂いた。
痛みに苦しむような悲鳴が私の耳に響いたけれど、そんなの関係ない。
ここで殺さなきゃ私が殺される。
狂気となりそうなものはなんでも試した。鎌も、斧も、鍬も。一度だって使ったことなんて無かった。
けれど、生きるために必死だった。
「こいつ…っ！」
私の首元を掴もうとすれば、その手を鎌で切り刻んでやった。
私を蹴ろうとすれば、その足を鍬で切り裂いてやった。
しまいにはそのまま喰おうと襲いかかってきたので、斧で頭をかち割ってやった。
私は悪くない、と言い聞かせて。
何度も何度も斧を振りかざし、しばらくすると苦しそうな唸り声を上げるだけで動かなくなった。
それでも私は、穴を振りかざす手を止めなかった。
まだ声をしているということは生きているということ、また襲いかかってくるかもしれなかったから。
「やめろ」
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作者名：棺桶には単位をいれてくれないか | 作成日時：2019年10月29日 1時
