6話 ページ6
「ところで傷はどうだい?」
「冨岡さんから頂いた薬で傷はすっかり無くなりました」
お医者様には残ると言われた傷も不思議なことに跡形もなく消えていた。
服の袖をめくり、残ると言われていた傷口があったところを見せると、明人さんは満足そうに笑った。
「笹原家に来る嫁が傷ありだなんて、世間にどう思われるか分からないからね」
「…そうですね」
彼のいう通りだ。傷が残らなくて本当によかった。
「じゃあ、また来るね」
「はい、次はいつになりますか?」
「うーん、最近は忙しくてね。ふらりと寄ることになるかもしれない」
「そうですか…」
明人さんの手が突然私の頬に手を伸ばしてきた。そのまま優しく頬を撫で、顎を支える。
「またすぐ来るから、そんなに寂しがらないでおくれ」
「はい、待ってますね」
明人さんを見送り屋敷の中へ戻ると、すぐに母に声をかけられた。
「A、悪いんだけどこれを××さんのところまで持っていってくれない?」
「これを?」
「ええ、すぐ返して欲しいって言われているの」
「わかりました。行ってきます」
母から風呂敷に包まれた物を受け取り、外を歩くと辺りはもう真っ暗だ。
1ヶ月前とはいえ、一度あんなことがあったと言うのにこんな夜遅くに扱いを頼むか。普通。と思ったけど、この前と違って今度は町中だから大丈夫だと思っていたんだろう。
私も1ヶ月前の件は、私の勘違いだったのではないかと思ってしまっている。
狂言だと言われたことを気に食わないと思っていたけど、よく考えれば鬼なんて空想上の生き物でいるわけない。
あの時はいきなり襲われて混乱してただけ。そう思い始めていたのだ。
だから、安心しきっていた。
××さんの家までは歩いて15分ほどで、その道中は明るい。変な輩が出ることはほとんどない。
出てきたとしても叫び声を上げれば、誰かが助けに来てくれる。だから大丈夫。
そこの曲がり角を曲がって、少し歩けば××さんの家だ。
しかし、歩いていると私の足音に重なってもう一つの足音が聞こえる。気のせいかと思ったけど、そういうわけでもない。
少し早歩きをすれば、その音も早くなる。遅くすればその音も遅くなる。
これはつけられてる?まさか、また私の勘違いだ。
私は被害妄想が激しいのではないか?
大丈夫、勘違いだと思っても、一度思い込んでしまうとそうなのだと決め付けてしまう。
一度振り返って見てみよう、何かあれば声を出せば大丈夫。
そう思って後ろを振り返った。
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作者名:棺桶には単位をいれてくれないか | 作成日時:2019年10月29日 1時