接吻とフレンド (ページ22)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:37,217 hit

雪だよページ22

．

「じゃあ、また。」

『ごめんね、全然おもてなし出来なくて...美勇人も起きないし...』

「美勇人くん疲れてるから、ゆっくり寝かせてあげてよ。」

『うん、そうする。ばいばい、顕嵐くん。』

扉は閉まって、雪の降る外には俺一人。

暖かい家の中には、Aちゃんと美勇人くん、二人きり。

あのあと、三十分くらいしてから起きたAちゃんは、軽いモーニングを作ってくれた。

トーストとコーヒー、スープ。

こんがりと焼けたトーストに、昨日作ったジャムを乗せた。

三枚もトーストを食べた樹くんは、遅刻するって騒ぎながら先に家を出た。

その間も、美勇人くんは起きてこなくて。

本当に疲れているんだろう、身体を壊さないか心配。

だけど、

汚い俺は、Aちゃんと二人きりになるための、美勇人くんの策略なんじゃないかって考えてしまう。

俺はただ、俺に出来るのはAちゃんに口付けること、ただそれだけ。

自分の無力さに、呆れる。

俺はこのままAちゃんを好きでいていいのだろうか。

ただ何も出来ないままここにいるだけで、そんなの美勇人くんを邪魔しているだけのいらない恋心もどきではないのか。

『っぁ、はぁ、顕嵐、くん！』

「えっ、Aちゃん！？」

名前を呼ばれて振り向くと、そこにはAちゃんがいた。

こんなに寒いのに、コートも着ないで部屋着のまま、足元は裸足にサンダルだ。

「どうして...」

『これっ、顕嵐くんに、っつくってたの。』

Aちゃんの手にした可愛らしい紙袋の中に、淡い紫のリボンが巻かれた瓶が見えた。

外気で冷えた冷たい瓶の中身は、透き通った薄紫で、驚くほど綺麗だ。

この瓶ってことはジャム...でもブルーベリージャムじゃ、こんな綺麗な色は出ないはず。

「これ...」

『初めてね、お花でジャム作ってみたの。顕嵐くん、美勇人の心配ばっかりしてたけど、顕嵐くん自身も疲れてるでしょ？ゆっくり休めるように、ラベンダーでね、作ってみたの。』

外なんて、俺は芸能人だなんて、関係なくて。

俺は強くAちゃんを抱き締めた。

Aちゃんの身体は、氷のように冷たい。

握り締めたジャムは、暖かな雪を映していた。

．