#4 ページ5
.
ガチャリとドアを閉める。
『ただいまー…』
鞄を放って、ジャケットを脱いだ。冷蔵庫の中を確認して、その足で洗面所に向かう。軽く乗せている化粧を落として、すぐにテレビをつけた。
幸せそうなニュースはあまり流れていなくて、逃げるように私はTwitterを開いた。
最初に目に付いたのはそらるのツイート。
そらる≪@soraruru:ライブのリハしてきた。楽しいものにするぞ〜[写真]≫19:54
ライブ、という三文字に少し気持ちがほっとした。
少し手を伸ばして、鞄の中からセンラさんに譲ってもらったチケットを取り出す。それはAfter the Rainの《2016-2017 カウントダウンライブ》のゲストパスだった。
それと、今回は個人で当選した同ツアーの名古屋公演にも行ける。
あと…もう少し時間が経てば、久しぶりに彼方と会うことになる。
今でもまだ愛しているあの人に。
『楽しみ、だなぁ』
きっと彼方は私がいることになんか気づかない。たくさんの人の中からたった一人を見つけ出すのは至難の業だ。
その人が、どこにいても見つけられる、大切な人…じゃない限り。
私はその"大切な人"じゃなくなってしまった。
もうそんな期待なんてできないのだ。
手に持っていたスマホが軽快な音をたてる。画面に表示されたのは、真冬という文字。翠緑色の緑のボタンをおして、耳に当てた。
『もしもし〜、真冬？』
「あ、梓ちゃん。ごめんね、こんな時間に。」
『別にいいよ。どうしたの？』
「えっと…センラさんからチケット貰った？」
『うん。カウコンのゲストパスだよね、』
「そう。それなんだけどね……その、よければライブのとき楽屋来ない？」
その言葉に、返答が詰まる。
ライブに行くことはあれど、楽屋に誘われたことなんて今までなかった。
いいの？という言葉が、不意に口からこぼれた。
「もちろん。梓ちゃんにしか言わないよ、こんなこと」
『…分かった、行くね』
「よかった。用件はそれだけ！またね」
無機質な音が、通話が切られたことを告げる。
自分の用件済んだらすぐに電話を切るところは、真冬の昔からの癖だった。
『…そろそろ、夜ご飯作らなきゃ』
夜ご飯を作って、食べて、明日の用意をして…
やることを頭に浮かべながらキッチンへと向かう。明日は金曜日。明日仕事に行けば、土日は休み。土日は天月……翔太と遊ぶ約束がある。
楽屋招待への一抹の不安を抱えながらも、足取りは軽い。
楽しみがあるだけで、私は頑張れるから。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 349人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
雷亜 - 私って涙もろいんですよ(笑)一ページ 一ページ泣いて泣いて泣いて(笑) もうすごいですよ涙の量が((殴 (2018年4月7日 9時) (
レス) id: e1e03b0ec4 (このIDを非表示/違反報告)
まひる(プロフ) - 読みやすいしキャラが掴めていてとても楽しく拝見させていただいています。好きです。 (2017年12月10日 10時) (レス) id: 9ac8f0bb45 (このIDを非表示/違反報告)
MiKU(プロフ) - 星華(´∀｀*)さん» ありがとうございます！無事第1章が完結してこちらも嬉しい限りです…！そう言っていただけて私も頑張って書き続けた甲斐がありました！続編含めて頑張るのでよろしくお願いします！ (2017年11月14日 7時) (レス) id: fb7ad52b3c (このIDを非表示/違反報告)
星華(´∀｀*)(プロフ) - 1章完結おめでとうございます！もう…一気に読んだんですが…涙が…。すごく好きになりました！！続編楽しみにしてます！頑張ってください！ (2017年11月13日 16時) (レス) id: 110a37d70c (このIDを非表示/違反報告)
MiKU(プロフ) - 唄葉さん» 唄葉さんありがとうございます！大好き、なんて言葉わたしにはもったいないです……！第2章でも頑張らさせていただくので、よろしくお願いします！ありがとうございました！！ (2017年11月4日 16時) (レス) id: fb7ad52b3c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
