写真。 ページ17
―――
『懐かしい…』
人差し指でとある写真を撫でようとした時────
扉は大袈裟な音を立てて開いた。
中から出てきたのは紛れもないさとみさんだった。
結局私は
―――
・
「Aさん?起きてる?」
風呂から上がっても部屋の中はしんと静まり返っている。
テレビの音もしなければとくに変わった様子もない。
「Aさん…?」
寝てしまったのだろうか。
そっとリビングの扉を開く。
『懐かしい…』
そう呟き悲哀の色を浮かべる彼女。
放っておいてしまえば雨のように儚く消えてしまいそうな、
そんな危うい空気────────…
言うならば男に守りたいと思わせる様な弱さの瞳で
とあるものにそっと手を伸ばす。
何を見ているのだろう。
そんな場所に何か置いていただろうか。
別に気配を消したつもりは無いが儚い少女を驚かせないようそっと近づく。
…って同い歳なのに少女ってのは可笑しいかな。
「Aさん何してるの?」
『わっ!さとみさんっおかえりなさっ!』
さっきの悲哀の色は歓喜の色に染まる。
その変化は俺の姿を見たから起こった、と受け取ってもいいのだろうか。
言わばただの俺の勘違い、夢見がちな妄想だったりしないだろうか。
『会いたかったです〜』
否、妄想なんかでは無いことがたった今証明された。
俺はここで確信した。
彼女はきっと俺のことが好きだ。
でもそれ以上に俺はAさんのことが好きだ。
「あー、この写真の俺、まだ幼稚園児だわ。恥ず…」
Aさんが眺めていたのはなんと俺の昔の写真だった。
俺と彼女が出会ったあの公園に母親と遊びに来た時に
撮った1枚だったかと思う。
手にはスコップを持ち、顔周りは泥だらけ。
今の俺からしたら考えられないほど濁りの無い心からの笑顔がそこには収められていた。
『一緒に映ってる黒猫ちゃんもいい顔してる』
「俺この公園にいた猫の中で此奴が1番好きだったんだよな。懐かしい」
ふとこの前再会した幼い頃から関わってきた黒猫の
存在を思い出す。
彼女が指摘した猫は俺の愛する野良猫のクロで、
なんとも言えない愛くるしい瞳がAさんに似ている気がした。
────多分俺は、
この世にある美しいものすべてをAさんに関連づけていたのだろう。
今の感情が何よりの証拠になった。
234人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時