生命。 ページ27
・
「生き、られない…?」
まって、どういうこと。
頭の中の糸が酷い有様で絡まりあって解けない。
「だってAさんは俺と同い年の17歳────」
そこまで言ってハッと我に返る。
彼女の群青色の瞳がまた悲しげに濁る。
でもそんな色を隠すような威勢のいい声で彼女は笑う。
『えぇー、さとみさん猫好きなのに知らないの?』
いや、知ってるよ。
────彼女は決して17歳などではないのだ。
「嘘だ…」
目の前にいるのは麗しい元気な少女なのに?
『ネコの17歳は人間の84歳。なかなか私も長寿でしょ?』
"両親が歳で他界した"というこの前聞いた信じ難い話もこれで納得できてしまう。
しかしふわりと可愛らしく微笑むこの子を見て受け止められる訳が無い。
理解しろと言われる方が無理だ。
「じゃあ、Aさんは…いや、クロは」
────もう死んでしまうの?
絶望の色が滲み出た。
それは俺の胸の深いところを残酷に抉り返した。
鈍い痛みが身体を走る。
猫って自分の死期が分かるんだっけ?
だから猫は自分が死ぬ前って飼い主の前から消えるんだっけ。
「だから、自分の死期を感じ取ったから、Aさんも俺から逃げたの…?」
あぁ。
なんでこんなにも神様は人間に苦しみを与えたがるのだろうか。
『死期が近づくとネコは逃げるだと?ばぁーか』
「…え?」
いちばん辛いはずのAさんを目の前にして俺はただ情けなく恐怖に脅えて泣いていた。
そんな俺を慰めるように彼女は言った。
『ネコは死期が近づいてきたら逆に人間に甘えるようになるんだよ…?』
ちゅっ。
ぐいっと身体を引っ張られて重なる唇。
それとは少し遅れて鳴る甘いリップ音。
光を纏いながら瞳を濡らした少女が俺の唇に貪欲なまでに食らいつく。
『だから、私…っ、もうすぐ死んじゃうから、もうこの時間も終わっちゃうから…最後はせめて甘えさせてよ、ばかっ』
人間の持つ感情の全てを言葉の暴力に変えたような
彼女の発言。
美しいと思った。
言葉が美しかった。
言葉が綺麗だ。
───────Aが、綺麗だ。
『私はネコだよ。ネコだから、寂しいの。お願い、私にはさとみしかいないの』
急に猫撫で声で呼び捨てをし、必死に俺を求める君はなんて美しくて残虐的なのだろうか。
これほどまでに胸を苦しめられたことは、無い。
234人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
眠民。 - 颯桜さんの作品は、涙が出るほど切ないお話が沢山あるけれど、でもその涙って美しいと思うんですよ‥(語彙力)今回のお話も泣きました!!笑 (2月8日 18時) (レス) @page36 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - 余白の落書き。さぶさん» 神だなんて恐れ多い☺️楽しんで頂けて幸いです (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
颯桜(プロフ) - ネコ日和。さん» ありがとうございますとても嬉しいです😢🫶🏻 (2023年1月16日 3時) (レス) id: f6025f27a2 (このIDを非表示/違反報告)
余白の落書き。さぶ - え、神ですか……?神作をありがとうございます! (2022年8月19日 19時) (レス) @page35 id: 74c80fc40d (このIDを非表示/違反報告)
ネコ日和。 - 好きすぎて、題名の一部を名前にとりいれちゃいました。 (2022年8月2日 15時) (レス) id: 18b130b5d8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:颯桜 | 作成日時:2020年5月8日 21時