誰 か さ ん 。 【黄】

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誰かさん とカラオケに行かなきゃ良かったと
後悔し始めたのは別れてから少したった頃。


彼の好きだった音楽が、なんとなく入ったお店で
見事に流れていた。



倒れるかと思った。
ただ、そこにはいつもの空間が拡がっているだけなのに。




好きな人の好きな音楽を聞くことの危険さについては、
私自身過去の恋愛を経て知っていた。


だから決して某メッセージアプリで彼が設定していた
BGMは聞かなかったし、某SNSでハイライトとして纏めていた好きな曲も、絶対に聞かなかった。



そんな時不意に誘われたカラオケ。




上手かった。 かっこよかった。 忘れたくない。



いい歌だった。


素敵な歌詞だった。



まるで、



まるで これからの私たちの明るい未来を示唆するような。



そんなそんな、甘い、お菓子のような歌詞。




『素敵な曲。初めて聞いた』





そんなコメントを残した夜


私は呆気なくミュージックアプリでその曲を記憶のままに
検索して、ライブラリに保存した。




まるで自分から彼に縛られに行くような行為に我ながら
笑った。


それすらも愛おしく思えた。


例え、もし貴方と別れる時が来てもこの曲がずっと好きだと思える自信があった。



言い換えるなら＿＿＿＿＿＿＿


誰かさん と別れる未来が、あまり見えなかった。





そんなことを思っていた私が、今、




涙をこらえて棒のように立っている





『るぅとくん、よく聞いてたよね』


私の隣で楽しそうに歌っていた貴方はどこへ。

カラオケの小さな部屋で、甘いキスをした貴方はどこへ。







自分だけ時計の針を逆戻りにされているような
重力に逆らうような不可抗力の中で
私は圧倒的な浮遊感を感じていた。




不 愉 快 だ






かつて好きだった音楽は


いや、かつて愛した貴方が好きだった音楽は





今の私にとっては毒






貴方の好きな物は、今の私の毒。





ねぇ、私も少しくらいはるぅとくんに毒を残せたかな。




こんなことを思う私はきっと狡い。



それに、彼に私への想いが1ミリも残っていないことは、
重々承知である。




『私もカラオケで、歌っておけばよかった』



『私もSNSで、好きな音楽 流しとけばよかった』






私は、貴方より少し先輩だから



別れた時の毒を減らしてあげようと、




消して 好きな音楽を、教えなかったんだよ。




その優しさに気づける日が来たら、
私のこの思いは、少しだけ報われるのかもしれない。

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