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「おー、なんやころん!突然居なくなると思ったらそんな息切らしちゃって」
「何でもない」
"彼女のこと、好きではありません"
なんて言ってみれば去り際に捕まれた胸元。
そりゃそうか。
自分の女にキスのひとつやふたつを交わしておいて恋愛感情は持ってないとか言われたら溜まったもんじゃないよな。
ぱっとシワになったスーツを払って一丁前に乱れた髪型を気にして見せた。
その時 鏡に映った僕を見る。
罪を負った男の顔をしていた。
…というか僕───────
「ころん、顔赤ない?大丈夫なん?」
はっ と友人の方を振り返れば素直に心配そうに僕を眺める柔らかな瞳がそこにあった。
ダメだよ。
他人の花嫁に手出す男なんだよ、僕は。
そんな優しさ、向けないでよ…
「ころん、まさかその口元のリップ」
友人の声は最後まで届かなかった。
だが、彼の言いたい事は十分分かった。
…嫌なほど、分かってしまった。
わぁっとオーディエンスの歓声が巻き起こり、視線は一極集中する。
「A、綺麗やなぁ。学生時代は青が似合うって思ってたんやけどピンクとか女の子らしいのも似合うなぁ」
「…ピンクなんて」
Aにあの色が似合うとか認めたくない。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。
「…Aは、ピンクが世界一似合う素敵な女だよ」
嘘 は 美 し い 。
嘘 は 、ど ん な 汚 い 感 情 も 美 し く 着 飾 っ て く れ る
僕はそんな嘘を愛しさえもした。
恋に終止符を打った僕は情けさにまみれながら彼女の華の姿を黒い心のないままに精一杯祝おうとした。
かつて彼女に恋をし告白した彼は懐かしそうに彼女の華の姿を心から祝福していた。
花婿はAを優しくリードする。
彼女が僕の姿を見つけ、小さく口を動かした。
僕はその美しい彼女を最後に瞳に焼き付けようと首を伸ばす。
その瞬間──────
「!」
花婿は狡かった。
僕に牽制するように見せつけるように
彼女の唇を貪るように愛した。
ピンクに染った花嫁に甘い毒を落とす。
その後Aが知らないような悪い顔を僕にだけに見せた。
なんて残酷な。
この日、これを最後にもう二度と
彼 女 と 視 線 が 交 わ る こ と は 無 か っ た 。
後悔なんてない。
ただ綺麗な思い出のまま消え去りたいと願うのは
"貴女が世界一美しかったから"
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眠民。 - ころんさんの小説久々にみたのですが‥雰囲気大好きです🤞🏻🤞🏻私的にはハピエンだと思いました。 (2月8日 18時) (レス) @page39 id: 7e432fa76e (このIDを非表示/違反報告)
なむなむ(プロフ) - すんごく良かったです!私は最後少しモヤモヤしちゃったんですけど、おもしろかったです!\(^-^)/ (2023年4月14日 17時) (レス) @page39 id: da249a0fb7 (このIDを非表示/違反報告)
ふわち - 読んでるとき、思わずないちゃいました…。すごくおもしろかったです! (2022年8月19日 11時) (レス) @page39 id: ed311d2c92 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - かけちゃってるんですから。恋って、すごく苦しいものだけど、このお話の恋はその中でも苦しかったです..。報われないなって。長くなっちゃいましたが、考えられるお話をありがとうございました! (2022年8月17日 9時) (レス) id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
かな?(プロフ) - 颯桜さん» このお話、読んでて本気で泣きそうになりました。すごく切なかった...。映画化してほしいくらいですw人間の汚いところとか、逆に苦しいくらいに綺麗なところとか、本当にぐわってきました。ハッピーエンドかもしれないけれど、残酷ですよね。人生の半分を幼馴染に (2022年8月17日 9時) (レス) @page38 id: 1a1d4d0288 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:颯桜 | 作成日時:2020年10月3日 20時