あなただから。【青】

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｢ちょっとあんたねぇ〜いつまでぐだってんの！｣




｢…？！え｣



スマホの電源を入れれば午前10時と表示されて思わず頭にハテナを浮かべる。





そして今の状況把握するのに15秒使った。


結局諦めて二度寝入りを決めようとしたところ布団を勢いよく捲られる。





｢Aちゃんだって大人の女性なんだから結婚ぐらいするでしょうに！ほら！起きなさいバカ息子！｣





｢さっむ！てか母さんはいつの話してんだよ…｣








"とっくにそんなこと忘れてたよ"









あらそ〜う？


なんて一言放つ呑気そうな母に
叩き起されて僕は渋々ベッドから離れる。





母は未だに彼女の話題を持ち出す。
もうその事実を知ってから1年は経つのに。





僕が未だに1年前の失恋を引き摺っているとでも思っているのなら辞めて欲しい。



念願の学校の先生になったのだ。

僕だって過去の終わった恋に囚われるほど暇じゃない。





この話題は

あの日、傘も差さずに雨に濡れながら涙を零して弱っていた僕を弄るネタとしては優秀なのかもしれない。



それか、未だに彼女を作る気配のない僕に結婚しろと
意図的に示しているのかもしれない。





正直結婚なんて…どうでも良い。





シャッとようやくカーテンを開けて日差しを浴びた。

電線に止まる仲良さそうなスズメと目が合っては逃げられる。





｢練習何させっかなぁ｣






不幸中の幸い、今日の部活は午後練だったから今から準備してもまぁ間に合うだろう。




遅刻しても生徒にいじられる程度の傷で済む。
というか先生の権力で会議があったとか適当に言い誤魔化せる。




大人ってずりぃ。






平日のスーツ姿とは打って変わって緩めなパーカーで身を包み車の鍵をポケットに突っ込む。






実際自分がやったことの無いスポーツの顧問をやらせるってこの業界鬼畜すぎるよな。






そんなことを思いながら鏡と向き合いボサボサとした髪型を必死にセットする。








鏡に映った僕のさえない顔を見て



"情けない"




密かに毎日そう思う。







そして、自分がこうなってしまったのは




"君のせいだ"




と密かに蔑んだ。




諦めたように掌にワックスを取り出したところ、
それに追い打ちをかけるように僕の母はまたテンションが高いご様子で僕の名前を呼んだ。







｢結婚式の招待状よ！｣








何年経ってもこの苦しみを忘れられないのは、
僕が苦しいほど愛した



"あなただったから"

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