【歌い手】たんぺんしゅう

あまちゃん ページ23

「ご家族の方、ですか？」




手術室からでてきたお医者さん。
その顔は喜べる返事を期待できそうになくて。





「はい、」





「私たちも手を尽くしましたが…、残念ながら」





「もう、大丈夫です…ありがとうございました、っ」






分かってた。こういう日が来てしまうこと。
見てしまったんだ。いつかは忘れたけど。

Aの鞄のなかに見たこともないほどの量の薬。
冴えない顔で病院からでてくる姿。
時々、意味もなく泣きそうになること。


薄々気づいてて、それでも言わなかった好き。





「Aさんは病気を抱えていました。それが悪化して________」




なんだか難しい言葉を先生が並べている。
理解できない。しようとしてない。
頭が働かない。


Aが、いない。




「なんで、教えてくれなかったの…っ、」





先生が去ってまふくんと二人きり。
涙って枯れないのかな。泣きすぎたら死ぬのだろうか。

足元が覚束ない僕をさっきしてくれたみたいにまた支えてくれるまふくん。
何も言わずにそばにいてくれて、手を握ってくれる。






「もう、帰ったら？」




“正直ここにいるの辛いでしょ”





「う、ん」





そこからどうやって帰ったのか分からない。
歩いたのか車だったのか。
いつまふくんがいなくなったのかも。


玄関のドアを開ければふわっと鼻先を掠めるAの匂い。
いつもならぱたぱた足音が聞こえて「おかえり！」
って元気な声で出迎えてくれるのに。





あぁ、






「足音が響かない、」









____________足音が響かない
　 あなたがいない____________

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