第十四話 ページ16
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『ちょ、…お母さん』
どういうつもり?と聞こうとした瞬間、
『あ、いた!!来てくれてありがとう!!』
私たちのもとに駆け寄ってきた女の人がいた。
『なんで、としくんのお母さんが…?』
『Aちゃん、大きくなったねぇ…あれ、もしかして聞いてない?』
と、きょとんとした顔でお母さんの方を向いた。
『だって、バレーボール見に行こうって言ったって絶対断るじゃない。だから、ちょっとしたサプライズ♡』
いや、全然嬉しくない。
『私、見ない。そこらへん観光してるからお母さんだけ行ってきなよ』
『えー、Aちゃん見ないの…?残念ね…若利が出るのに…』
え?
『としくんが…?』
『若利くん、U19の日本代表入りしたのよ!だから、どうしてもAとも見たくて!!』
としくんが日本代表…?
『あっ、もう始まっちゃう…!!Aちゃんも行きましょ行きましょ!!』
そうやってとしくんのお母さんに遠慮気味に背中を押された。
『A、お母さんはね、あなたの苦しみをないがしろにしようってわけじゃないのよ。
でも、自分勝手かもしれないけど、お母さんはもう許してあげてもいいと思うの。』
お母さんはそう言い残して、先にアリーナの方に向かった。
『許してあげてもいいと思うの。』
その言葉だけがぐるぐる自分の中をめぐる。
許す、か。
私からバレーを奪った病気のこと
準決で倒れてしまった自分のこと
楽しいを教えてくれたバレーボールのこと
『……っ』
勇気を振り絞って出した一歩
入り口との境界線を跨いだだけなのに、耳元でドクドク音がした。
また、やめる?
いや、やめない。
『……っ!!』
勢いにまかせて乗り込んだアリーナは
懐かしい匂いがした。
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『Aちゃん、置いてきていいの?』
『大丈夫よ、あの子は充分に苦しんだ。
もう自分で乗り越えてやってくるはずだわ。』
『…あなたたちは二人揃って成長したのね。』
『うん。』
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作者名:にゃん吉 | 作成日時:2020年1月21日 23時