Scramble LOVER -夜半の約束3

134　After Story　side R ページ34

今日でAは
五十嵐コーポレーションを退社する。



　“頑張ってみる？二人で”



あれから一年。

本当にその判断が正解だったのかと思う事が
何度かあった。



年初めに岩田君にリーダーを譲ったプロジェクトが終結した時の達成感に溢れる顔。


新年度を迎え、新人研修の講師に決まった時の
意欲的な顔。


夜、後輩からの電話に
親身になって話し込む愛情溢れる顔。


手帳をそっと閉じ、憂う顔。





その日の朝。

着替えを済ませたAが天井を仰ぎ
小さく息を付いたその背中を
思わず抱きしめてしまいそうになって、

律しながら腕を組んだ。



「辞めるの、止める？」
「…止めない」
「だったら、笑え？」



明らかに瞳をゆらしているくせに
どびっきりの作り笑顔を見せたAに

改めて思う。






「お疲れ。A」







この瞬間から先のAの人生に

俺が責任を持つ。







「帰ろ、A」





実は今日、プロポーズをしようと思っている。



指輪も買った。

またかと言われるかも知れないけど
薔薇の花束も隠してある。



助手席のAに見つめられ
高まる感情を懸命に抑えていた。


「帰ったら濃いの(・・・)、させて」




　“A、結婚、しようか”
　“幼馴染、もう終わりな”
　“恋人から始める？”




冬と春。
夏と秋。

そしてまた、冬が来た。



全ての季節を恋人として過ごし

そしてそれは、幼馴染として過ごした期間よりも
遥かに濃い時間だった。


俺たちには意外と初めての事が多かったり

相変わらずな強がりが
悶える程可愛らしく感じたり


改めて、Aが存在しない人生なんて
俺には意味がないと

そしてやっぱり、届く場所で存在して欲しいと
そう思い知らされた。




今日はこの後
二人で食事に行く約束をしている。



でも、救いを求めるようなAの瞳に

ここが駐車場だとか
部屋に上がればいいのにとか

良識的な判断を下す余裕さえなかった。




欲のまま唇を割った俺に
待ちわびていたかのようにその舌が絡みつき

そして零れ落ちた涙が尊くて愛おしい。




大丈夫だよA。

全部晒して、全部預けて。




走り続けた今日までの日々も
後ろ髪を引かれるその想いも

掻き消そうとしている不安も
踏み出そうとしている一歩も。




「A…」




愛おしくて堪らない。

何度感じても足りない。




俺のスマホが鳴ったのはその時だった。




「…チッ、所長だ」


　

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