ゆくあてなき刹那の恋詩 2

063　side R ページ13

「じゃーね、隆二」
「…ん、いってらー」


二泊三日の大阪出張に向かうAを見送り

二度寝しそうになった所に
丁度シャワーから昂矢が出て来た。


「あっぶねー、寝そうだった」
「ははっ、ナイス俺！」


ハイタッチの後
キッチンに向かった昂矢。


「…隆二。姉ちゃんの事なんだけどさ」
「んー？」

「この間、登坂さんて人が来て…」



　“A？”
　“…隆二”

　“今の、岩田じゃないよね”



「…そいつ、泣きボクロあった？」

「あ、あったあった。…え？隆二知ってた？」

「A朝帰りした日あったろ？
　あん時A送って来たの、多分そいつ」

「そか。知ってたんなら、…まぁ、いいや」





　





一年…いや、一年半くらいか？


Aが違う香りを纏って帰って来るようになったのも

風呂で泣くようになったのも。



今までだったら恋人が出来れば
聞いてもいないのに惚気けてたクセに

形跡は有りながらも
そのワードを口に出さないAに

まさか不倫か？と思った事もあった。



　“お風呂入って来たから”
　“へー。どこで？”
　“男の家”



岩田(コーハイ)に抱えられて帰って来たあの日

数日前に見つけた鎖骨下のマーキングと
岩田がリンクしてしまい

　“俺、今日帰るわ”

思わず逃げ出してしまったけど


後日。


今度は違う男の車で朝帰り。


助手席から降りたAは
上半身だけ車内に戻し、後頭部に回った男の手。

去り際に俺の真横を通った運転席の男には
泣きボクロがあった。





Aが涙を流す原因は登坂(アイツ)だ。





「お帰りA」
「ただいま。なに買って来たの？」
「…サラダと冷奴」


出張から帰って来たばかりだってのに
また一人で泣いたな？


「えーッそれだけ？」
「ははっ、じょーだん」

「あ、昂矢ー！携帯鳴ってる！」
「はいはーい。もしもーし。あ、センパイ？」



昂矢に来たその電話は
俺にとって、偶然の産物となった。



「ごめん隆二、センパイに飲み誘われたから
　行ってくるわ。ゆっくりしてって？」

「ん、了解」
「…私ん家(ち)なんだけど？」

「行ってくるね、姉ちゃん」
「…いってら」



フォークでサラダを突っつきながら
不機嫌に昂矢を見送ったA。



「なぁA」
「んー？」

「コレ。昂矢に内緒で飲んじゃわない？」
「うっそ！それ飲んでみたかったの！」


酒好きには名の通ったこの日本酒。

買って来た俺、Good job！





　

064→←062　side you

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す