《ポケモンXY&Z》その救済は、誰が為に。《オリジナル劇場版》 (ページ4)

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Ⅱ．眠り姫の焦燥ページ4

─…さい、シエラ。早く、…

沈むような、浮かぶような。どちらとも取れる矛盾した感覚と共に、ふわふわとした意識が現実に足を付け始める。

やがて、ゆさゆさと身体が誰かに揺らされている事に気が付いた。
誰かと言っても、こんな事をするのは、この家には一人しかいないのだけど。

「いい加減に起きなさい、シエラ！」

「ぇ、は、わぁっ！？」

びくりと身体を跳ねさせ、私はベッドから床に転げ落ちた。
犯人の手で引きずり出された布団は、既に床の隅に寂しげに丸められている。

落ちた拍子に強かに打ち付けた腰を擦りながら、私は顔を上げて犯人と目を合わせた。

「おはよう、寝坊助さん。ご気分はいかが？」

「ローズ姉様…お、おはよう、ござい、ます…あれ？あの、今って時間は…」

両手を腰に当て、呆れたような顔で姉様─ローズ姉様が床に座り込む私を見下ろしていた。

姉様はまた一つ溜息を吐くと、私に片方の手を差し伸べながら告げる。

「…そうねえ…後一時間で約束の時間、と言ったら分かる？」

「やく、そく…約束？」

「…シエラ…まさか、」

…む、何か重要な事を忘れているような…いない、ような…？
頭を捻りつつうんうん考え込む。…そんな私に、遂に痺れを切らした姉様からの無慈悲な宣告が下った。

「…あー、ごほんごほん。神界万年祭─《エデンフェスタ》の主役である救済の巫女様こと、シエラ様？いよいよ明日に迫った儀の為の話し合いに、遅れても良いのですか？」

「…っあ！いけない、そうです、そうでした…！」

やけに芝居がかった姉様の言葉に、雷に撃たれたような衝撃が走ると共に、残っていた眠気やら何やらが吹き飛んだ。
まったく、もう！どうしてこう、大切な事を忘れてしまうんでしょうか！

慌てて立ち上がり、姉様を押し退ける勢いで下への階段を寝間着のまま駆け降りる。

「…落ち着きのない子。全く誰に似たのやら、ねえ？」

─だから。姉様がそんな私の後ろ姿を見ながら、呆れたように笑っていたことなんて気づかなかったのです。

＊

テーブルにつき、姉お手製のフレンチトーストを手早く胃に収めると、お気に入りのワンピースとポンチョを身に着ける。

ゆっくりと階段を降りてきた姉に手短にお礼を告げて、少女にとって大切な物を持って玄関を飛び出した、それと同時に。

─のやっ、やっこ！

嘴に小さなメモを咥えた一羽のヒノヤコマが空いていた窓から滑り込んだものの、少女は気づくことなく、森の中の家を後にした。