今だけは、 ページ38
「ねぇ、なにしてんの？」
背後から聞き慣れた、だけど物凄く低い声がした。
軽く首を回してみたら眉間にしわを寄せた北斗が。
「ほ…くと。」
人が来たからか、男は手の力を緩め
あたしの首から手を離す。
「ケホッ…う…」
北「…お前、はぐれんなよ。」
「………」
好きではぐれた訳じゃない。
女の子たちに囲まれて
何だか北斗を盗られた気がして。
見たくなかったの。
北「隣にいないから焦ったっつの。」
「………」
なんて返事したらいいか分からず
言葉が出てこなかったけど、
いつの間にか3人の男たちからあたしを隠すように、
男たちとあたしの間に割って立つ北斗に
安心感を覚えて目の前の北斗のシャツを軽く握った。
『何だよお前？』
北「お前らが何だよ。こんな人気のねぇ所で。」
『お前に関係ねぇだろ？俺らはソイツに用があんの。
…だからさ？引っ込んどけっっ！！』
北「っ、あぁ？………ぅるせぇなっ！」
いきなり男が殴りかかってきたと思ったら
北斗はあたしを背中に庇いながら綺麗に避けて、
一瞬息を整えたと思ったら
凄いスピードで拳を相手の顔面めがけて打ち込んだ。
『な、…っ』
北「何？…あぁ、顔面当てた方が良かった？」
『…お前！し、知らねぇからな！覚えとけよ…！』
男たちがジリジリ後ずさりし
その後猛ダッシュで逃げていく。
何が起こったのか把握できないあたしは
今更足の力が抜けてしゃがみこんだ。
北「緋織？」
「北斗…」
北「ごめんな、怖かったろ？」
あたしの前にしゃがみ顔を覗き込んでくる北斗。
さっきまでの低い声と違って柔らかないつもの声。
あたしは頭を横に軽く振ると
目の前にしゃがむ北斗の小指を弱々しく握った。
今は誰かに縋りたかった。
6人と出会ってあたしは弱くなったのかもしれない。
北斗は何かを察したのか
優しくあたしの頭を撫でて言った。
北「…もうはぐれんなよ、分かった？」
「……うん。」
そのまま北斗はあたしの手を握ると立ち上がらせて
帰ろ？と歩き出した。
「北斗、手…」
あたしが握られた手を離そうとすると
北「だめ、今日はだめ。」
そう言って握られた手はそのまま。
いつの間にか冷え切ってた手は暖かくなっていて。
震えてた全身は落ち着きを取り戻していた。
そしてあたしは北斗に
聞こえるか聞こえないかの小さい声で
「……ありがと。」と呟いた。
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作者名：hiori | 作成日時：2019年10月3日 2時
