side 北斗 ページ39
今この手を離したらだめだ。
そう直感で感じた。
真夏だというのに冷たすぎる手、
血の気の引いた青白い顔、
哀しく優しく笑う顔に
何かを諦めた薄茶色の瞳。
このままこいつを1人にしたら
そのうち消えてしまいそうで、
俺は怖くなって緋織の手を強く握りしめた。
女の子達から引き留められ、
好きやら付き合ってやら言われたけど、
大体4、5人できて言う事じゃねーだろ、と思い
すぐに断りを入れて緋織のところへ戻ろうとした。
けどあたりに緋織の姿はなかった。
せっかく2人でいたのに、早く緋織に追いつかねーと。
小走りで角を曲がる。
あとは一本道をまっすぐ。緋織の姿が見えるはず。
そう思ったのに俺の視界に入ってきたのは
緋織の持っていた買い物袋と、緋織のスマホ。
何かあったのかとスマホを拾い、
1番近くの路地に入ると苦しそうな緋織の声が聞こえた。
喧嘩は得意じゃない。
だけど空手をずっとやっててよかった、役に立った、と
今日ほど思った事はないかもしれない。
緋織の手を握ったまま、無言で家まで歩く。
俺が家の門に手をかけた時、
緋織が俺の手をぎゅっと強く握った。
北「……ん？どした？」
「北斗、何も聞かないの？」
北「何を？」
「…聞いてたでしょ？さっきの…」
北「俺は何も聞いてない」
本当は聞こえてた。
緋織の苦しそうな声と男の"和也""兄貴"と言う言葉。
両親がいないのは知っていたけど
兄妹のことまでは知らなかった。
けど、緋織は男に"和也"の居場所は知らないと言っていた。
いや、知ってたけど言わなかったんだ。
緋織を見ると、何か迷っているような顔で。
俺に何か伝えようと口を開くも
言葉を見失って口をまた閉じる。
北「無理すんな。待ってるから。」
「え？」
北「こないだお前、言ってただろ？待っててって。」
「…初めてうちに来た時…だっけ？」
北「言える時が来るまで俺は待つよ。」
「うん…」
北「それよりバーベキュー楽しもうぜ。みんな待ってる。」
「うん！」
少し安心したのか表情も明るくなり
彼女はいつも通りの緋織に戻った。
だけど何かが俺を不安にさせる。
みんなと合流し何事もなかったように
バーベキューを楽しむ緋織を横目に
俺はあるところへ電話をかけた。
「…松村と申します。サクライさんはいらっしゃいますか？」
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作者名：hiori | 作成日時：2019年10月3日 2時
