fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【取引】 ページ5

取引、と聞いてウォンカの顔付きが険しいものに変わる。
鞄の中の物をおもむろに取り出して、顔の横で掲げるスラグワース。
手にしていたのは……札束だ。
見た事も無いお札の束の横で、スラグワースは怪しげな笑みを浮かべた。



「一万ソブリン。これは君がミセス・スクラビットに負っている金額だ」



そう言うと、また新たに鞄から札束が取り出される。
アバカス・クランチ。パイパー・ベンツ。ロッティー・ベル。ラリー・チャックルズワース。
皆の名前が呼ばれ、彼らが背負っている借金と同じ額の札束が並べられた。
そして最後に―――今出された金額の何倍もの厚みを持った札束。
ヌードルの分だ。


スラグワースは甘い声色で言う。これで彼女に服も、おもちゃも、本も買い与えられると。
本、という単語にウォンカの視線は札束に吸い込まれた。
本はあの子の大好きな物であり、夢の一部だ。



「これで彼らは自由になれる」



ウォンカの胸にほんの僅かな希望が灯る。
まだ自分は仲間たちの助けになれるのだと。
取引という事は、それ相応の交換条件が待っているはず。
彼は逸る気持ちを抑えて、落ち着いた声で問いかけた。



「僕は、何をすれば？」

「この街を出ていけ。そして二度と、チョコレートを作るな」



シンプルな選択肢だった。
自分の今までの人生と夢を諦めるか、仲間たちの人生と夢を見放すのか。
ウォンカには最初から一択しか選択の余地が無いと悟っていた。
勿論、取引を受けるつもりだ。だがふと、彼は今名前の挙がらなかった人物について問いかける。



「……アリスは？アリスはどうなんですか」

「アリス？何故君が彼女を気にする必要がある？」



彼女の名前を出すのは悪手だったかもしれない。
だが、自分がこの街を去るならば、彼女の幸せも保証してもらえないと気が済まない。
彼は事を大きくしない様、一度冷静になろうと呼吸を整えた。



「彼女には、この街に来たばかりの時助けてもらって……。
今日お店に来てるのに気付いて、何か恩返しを出来たらと思ったんです」

「そうかい、だが心配は無用だ。君の恩返しなどなくとも、彼女は幸せに暮らしていける」

「……絶対ですね？」



念押しする様に、ウォンカはひっ迫した目付きでスラグワースを見詰めた。
様子が少し変わった彼のプレッシャーに一瞬たじろいでしまったスラグワースだったが、自分の方が優位な立ち位置だということをすぐ思い出す。
釘をさす様に「勿論」と深く頷いた。



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