fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【一件落着】 ページ38

「ご協力、ありがとうございました。また何かあれば、よろしくお願いいたします」

「こちらこそ、ご迷惑をお掛けしました」

「いえ、とんでもない！」



深々と頭を下げるアリスに対して、アファブルは更に深いお辞儀を返した。
広場の少し離れた場所で行われ軽い取り調べ。
フィクルグルーバーの婚約者兼、秘書としてアリスは事情徴収を受けていた。
と言っても、彼女がその立場にいたのはほんの一日のみで、裏帳簿以上の事はほとんど知らない。


どっと疲れが襲ってきて、肩の力が抜ける。
ミルクキャラメルのような空がちょっと美味しそうだなんて、変なことを考えてしまっていた。……これも彼の影響かな。
相変わらず噴水の周りは大盛況で、彼のチョコの素晴らしさを改めて実感する。
深呼吸をすれば、甘い空気が胸を満たした。



「(終わったんだ……全部)」



厳密に言えば全部ではない。
警察もまだ裏帳簿の内容を全て把握できている訳じゃない。
そこにアリスの名前、家族の名前や「Honest kitchen」の名が載っていれば、再び事情聴取が行われるだろう。
だが今だけは、この心休まる空間を憂いなく楽しませてほしい。


時を知らせる鐘が五時を知らせた。
何だか今日は一日が長く感じる。アリスは一段落入れようと、噴水の方へ足を向けた。



「(ウィリー、いないな)」



無意識のうちに彼の姿を探してしまう自分がいて、一人恥ずかしくなる。
こんな風に心を誰かに搔き乱されたのは初めてだ。
……悪い意味では何度かあったかもしれないが。


噴水の縁に腰かけたアリス。ゆっくりと、これまでの事を思い出していた。
サンドイッチを美味しそうに頬張る姿。自信作について熱弁する顔。
チョコを披露する時の輝いた瞳。優しく包んでくれた体温と、少し早い鼓動……。



「(それは思い出さなくていい！)」



はっきりとは覚えていなかったが、何かとても恥ずかしい事をやらかしてしまったことだけは記憶に残っていた。
頭を振って、そのことについてだけは忘れる事とする。


彼は自分に助けられたと言ってくれたが、こちらの方が比べ物にならないくらい多くを救われた。
知らない自分を教えてくれた彼に、本当の自分を思い出させてくれた彼に、悪い魔法を解いてくれた彼に、心から感謝を伝えたい。


清々しい気持ちで、アリスもまた伸びをした。
そんな彼女はまだ気が付いていない。誰かの足音が物凄いスピードでこちらに近付いてくる事に。



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