fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【あの子と潔癖症】 ページ4

傷だらけの手足、煤だらけのエプロン、ピンク色の髪の毛。
フィクルグルーバーは変わり果てたアリスを見て狼狽えていた。
なんてことだ！と嘆く彼をプロドノーズが宥めている。
少し落ち着いたのか、額に片手を当て深い溜息を吐いた。



「あぁ、アリス……大丈夫だとも、心配しなくていい。事情は君の父に聞いている」

「な、にを……？」

「この店に偵察に来ていたんだろう？」



アリスがそんな真似する訳ないという事くらい分かっている。
今の彼女の立場で「違う」と強く否定できない事も分かっている。
現に彼女は怯えながらも、無言を貫いていた。
大丈夫、僕はそんな事信じていないよ。
ウォンカには彼女に向かって、そう念を込める事しか出来ない。



「賢い君でも未知の物への好奇心が抑えきれなかったんでしょう？
だからこんなび、び……」

「貧乏人のチョコレート？」

「おえぇ」

「そうだった、すまんフィリックス」



フィクルグルーバーが嘔吐く。すぐさまハンカチを取り出し、口元を抑えた。
アリスが心配そうに駆け寄るも、彼は眉に不快感を表し彼女から数歩距離を取る。
その光景を見て、ウォンカの胸の辺りでモヤモヤした感情が沸き上がる。


直後、フィクルグルーバーは取り繕うように薄ら笑ってハンカチ越しにアリスの肩を抱いた。
それから持っていた鞄をスラグワースに手渡す。



「アーサー、後は任せても？」

「あぁ、構わん」

「……さぁ、アリス。家まで送ろう」



ウォンカが一歩踏み出すと、スラグワースとプロドノーズが割って入った。
ピンク色の長い髪を抱きながら、無抵抗のアリスの背が遠くなっていく。
二人の姿が見えなくなったタイミングを見計らって、スラグワースが重々しく口を開いた。



「さてと……貴方も大変でしたなウォンカさん。折角の立派なお店が、お気の毒に」

「……チョコの異物混入は、貴方達の仕業ですか？」



そう実直に問えば、スラグワースは肩を竦めて嘲笑う。
完全否定されるのかと思ったが、彼は「スクラビットに”何か”促したかもしれない」と関与を仄めかした。
悔しさと悲しさがじわりと彼の胸に滲み出す。
わざわざ三人一緒に何をしに来たのだと問えば、スラグワースはそれが本題と言いたげに、フィクルグルーバーから預かった鞄を徐に開いた。



「ウォンカさん、我々と取引をしていただけませんかな？」



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