fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【本心】 ページ27

甘い香りだけを残して、空き瓶はアリスの心と共に砕け散る。
大きく入ったヒビが、音を立ててただの硝子片へと変えた。
震える彼女の握りこぶし。繊細な美しさを放つ床を殴りつけるも、びくともしない。
向こう側に苦悶の表情を浮かべる二人。



「どうして……！」

「気のせいかなアリス、私には君が我々を裏切って、彼らに味方しているように見えるのだが」



ねっとりと「まさかそんな訳だろう？」と言いたげにスラグワースが放った。
ここに来て何も出来ない自分への苛立ちと背後でせせら笑う男への苛立ち。
そして目の前で彼らを失うかもしれない焦りがアリスの思考を阻む。



「賢い君に限ってそんな事あるはずない。そうだろうアリス？」

「私は賢くなんかないし……貴方たちが思ってるほどお利口じゃない……！
貴方たちに……貴方たちに、私の何が分かるの！？」



私の事なんて何も知らないくせに！ アリスは声を荒げた。
彼らの前で大声を上げたのはこれが初めての事で、三人は驚愕したように表情を変える。
今まで何年もずっと抑えつけていた彼女の感情が限界を迎えて破裂してしまった。
もはや取り繕う事さえ忘れて声をぶつけるアリス。



「私の失くした夢も、信じたかった魔法も、大好きだったチョコレートも、ウィリーが全部見つけてくれた！貴方たちが私から奪った物全部！」



アリスが叫ぶ。悲痛な色合いの声で。
初めて見る彼女の様子にフィクルグルーバーは狼狽えた。
だが隣のスラグワースは冷酷な視線のままアリスを見やる。



「全部君が選んだ事だろう？まさか魔法なんてもの本気で信じているなどと言うまい？
それで、君はそんな理由で我々への恩を仇で返すと？君のレストランを守ってあげたというのに」



守っただなんて、白々しい言葉。
彼女にとっては人質と言ってなんら相違なかった。
悔しさで視界を滲ませる彼女に、スラグワースはさらなる追い打ちを掛ける。



「これまで築き上げた数年を台無しにして……今の君を父君が見たらどう思うだろうね」

「っ！」



父、ポールの顔が脳裏に浮かぶ。 そうだ。全ては父の夢の為だった。
あのレストランは父の夢で、人生だったのだから。
そして、アリス自身も大好きな場所。自分もあの場所を人生にしたかった。
だからずっとあの空間を失いたくない一心で……。



「馬鹿な真似はよしなさい。今ならまだ引き返せる。我々と一緒に明るい未来を築こうではないか」

「……嫌」



ぽつり。アリスが呟く。



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