fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【空っぽの瓶】 ページ25

刻をほんの僅かに遡る。
作戦を次の段階へと移行させるアバカスを見送ったアリス。
彼は去り際に「我々に出来るのは彼を信じて待つだけだよ」と微笑んで、マンホールの中へと消えていった。


彼を信じて待つ。アリスは告解室を見つめて、祈るように目を閉じる。
神聖なる大聖堂の中で、彼女の鼓動だけが耳に届いた。
どうか、どうか……。


心の中で何度も唱えていれば、告解室から聞こえてきた微かな話声。
開かれたアリスの瞳が神聖な扉に吸い込まれる。
まるでスローが掛かっているんじゃないかと錯覚してしまうほど、扉が開くのがやけに遅く感じた。


脈打つ心臓がピークに達した時、扉の奥から現れる見知った顔。
きっと作戦を成功させた彼が輝かんばかりの笑みを浮かべて、駆けてきてくれると、そう思っていたのに。


この世に本当に神がいるのなら、なんて意地悪なんだろうと後に思う。
またも残酷な現実によって、アリスは後悔に打ちひしがれる。
現れた顔を見た瞬間、彼女の心臓は凍り付いた。
告解室から出てくる”三人”を順番に一瞥する。


何かを話しているプロドノーズ。それに対して不愉快な顔をするフィクルグルーバー。
そして全てが片付いて満足げに微笑む……スラグワース。


ウォンカの姿も、ヌードルの姿も、どこにも見られない。
不安定な足取りでアリスが彼らにふらふら歩み寄る。
真っ先に彼女の存在に気が付いたフィクルグルーバーが、驚いたように目を見開いた。



「アリス！待っていなさいと言ったでしょう」



彼の言葉が耳に入ってこない。目の前の現実が受け入れられなくて、呼吸をするのさえ忘れてしまいそうだった。
彼らの顔など見たくもなくて、自然と下げられる視線。
焦点がスラグワースの手元のある物に止まると、彼女は弾ける様に飛び付いた。
そして彼からそれを……空っぽの瓶を掠め取れば、鼻先を漂った大好きな香り。



「その瓶がどうかしたかな？」



彼とヌードルはどこへ？何故彼の瓶を持っているの？しかも、何故空っぽのものを？
沢山の疑問が喉につかえて出てこない。嫌な考えが脳内を駆け回る。


ドンドンドン―――ふと、どこからか何かを叩くような音が響いてきた。
意識が絶望の水底に沈んでいったアリスは我に返り、ハッとして顔を上げる。
微かに聞こえたのだ。打音に混ざって「助けて！」と叫ぶ声が。
音の出どころ見つけ、這うように地面にしゃがみ込む。
金の細工の施された硝子床。隔たる硝子越しに、彼らは居た。



.

【死刑執行】→←【Chocolate Execution】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す