【最後の希望】 ページ3
ウィリー・ウォンカが悲しみの激流に飲まれていたのは、この悲惨な店内だけが理由では無かった。
それは母との約束。何年も経っているが、今尚色褪せない、大切な約束だ。
「いつか貴方がお店を開いて、チョコレートを世界にお披露目する時、ママ必ず隣に居るわ」
ずっと信じていた言葉。ずっと叶う時を待ち侘びていた夢。
きっと約束を守ってくれると、来てくれると、そう思っていたのに。
ばかばかしい夢だと自分でも思っている。それでも叶うような気がして、今日までこうして生きてこれた。それなのに。
夢も希望も多くを失った。
ヌードルはもう一度やり直せると言ってくれたが、もう立ち上がる気力も起きなくて、ぐったりと項垂れる。
眼に映るのは焼け焦げた床と、砕け散った夢の残骸。
そんな彼の視界にふわりと揺れる見知ったエプロンが入ってきて、それがアリスだとすぐに分かる。
顔を上げようにも、今の情けない顔を見せたくなくて、上げれない。
ただ黙って俯いていれば、ゆっくりと視界から光が奪われる。
頭の後ろに回された細い腕。顔に当たる優しい温もり。甘いアリスの香り。
彼女に抱きしめられているのだと気付いた時、彼の瞳に涙が浮かぶ。
子供のころ、母にぎゅっと抱きしめられた時を思い出して、より一層胸の痛みが増した。
「ありがとう、素敵な夢を見せてくれて」
彼女の一言で、頬に一筋の雫が伝う。
出来る事なら抱きしめ返したかった。彼女の顔を見たかった。
でも何の言葉すらも返せない自分が不甲斐ない。
アリスはゆっくり離れていくと、足音が遠ざかって行った。
彼女を追いかける事が出来たら。そんな考えだけが過ぎり、消える。
もう何をしたらいいのか、何をすべきなのか彼には分からなくなってしまった。
そんな時だった。
立ち去ったと思った彼女の、息を呑む音が聞こえたのは。
そしてほぼ同時に、殆ど悲鳴みたいな彼女の名を呼ぶ声が響く。
「アリス!!!」
「フィ、リックスさん……」
怯えた彼女の声の意味を理解して、乱暴に掌で涙の跡を拭った。
急いで立ち上がって振り返れば、ピンク色の後ろ姿と、彼女に詰め寄る三人の影。
その中の一人、フィクルグルーバーが顔色を真っ青にしながらアリスに駆け寄る。
これ以上、まだ希望を奪おうというのか。
彼も彼女の元へ近寄ろうとするが、スラグワースの重々しい「ウォンカくん」という声に止められてしまう。
アリスの肩が震えているのが見えて、息が苦しくなった。
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ソフナー(プロフ) - かんなさん、コメントありがとうございます!そしていつも最高のお言葉ありがとうございます!最後まで書けたのもかんなさんの応援コメントのお陰です♡フィクル推し増えた!やったー!番外編は気を長くお待ち頂けたらと思います(笑)ありがとうございました! (3月4日 5時) (レス) id: f0e451cd1d (このIDを非表示/違反報告)
かんな - 本当に最後までお疲れ様でした!こんな素敵な作品に生きてるうちに出会えて幸せです。夢小説でここまで心動かされて感動して毎日の更新が楽しみだった作品はありません!またアフターストーリーも楽しみに待ってます💕ちなみに私はこの小説でフィクル推になりました笑 (3月4日 1時) (レス) @page44 id: af16048ac0 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - えんさん» えんさん、コメントありがとうございます!一番最初にえんさんから頂いたコメントがパワーになっていました!❤️🔥最後までお付き合い頂きありがとうございました!🙏 (3月3日 21時) (レス) id: f0e451cd1d (このIDを非表示/違反報告)
えん(プロフ) - 完結おめでとうございます🎉🎉ほんとに大好きな作品です✨ (3月3日 21時) (レス) @page44 id: 284b114cd7 (このIDを非表示/違反報告)
ソフナー(プロフ) - むめさん» むめさん、コメントありがとうございます!ウォンカ夢自体めちゃくちゃ少なくて、私が……やらねば……!と思ってここまで来ちゃいました(笑)嬉しいお言葉ありがとうございます……!むめさんの命が助かって良かった……!私も救われます😭救護活動❤ (2月18日 11時) (レス) id: f0e451cd1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ソフナー | 作成日時:2024年2月12日 21時