fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【とびっきりの新作】 ページ16

時折シーツの擦れる音が背後から聞こえてくる度に、ウォンカの口角が微かに上がっていた。
冬の空が徐々に白み始めて、朝が近付いてきている。
机の上には様々なチョコレート。


アカシアミントにナイトライフ。超強力ホバーチョコ。
持てる材料を惜しみなく使った最高傑作たちだ。
これらがこれからの作戦に彩りとスパイスを与えてくれるはず。
そして最後にもう一つ。ウォンカの真剣な視線が、ポータブル工場に注がれていた。



「(君の夢を叶えるためのチョコだよ)」



アリスに贈る新しいレシピ。
かみなり雲と太陽の雫。この二つでひとすじの光が出来る。
だがこのチョコの力はもっと強大だ。
更にバタフライエフェクト・バタフライの集めた蜜、それから薔薇のチョコにも使ったスノッズベリー。隠し味のキリンのミルク。
あとは勿体無いけど、彼女の髪色を元に戻すための着色料を少々。
これらを加えて、新作兼試作品の出来上がりだ。


時間が無いので効果を試せないが……大丈夫だろう。
そろそろ此処を発たなければならない。
新作の名前はそうだな……ウォンカの素？ウォンカの気持ち？この際そのまんま、ウィリー・ウォンカなんてどうだろう？
まぁ、何でもいいか。


これがきっと彼女と、自分の助けになる。
彼はチョコを可愛らしくラッピングして「eat me」と書かれたメッセージカードを付けた。
このチョコのネーミング次第ではちょっと誤解を招きかねないが、細かい事だ。気にしない。



「(それじゃあアリス、またあとでね)」



そう残して彼女の寝顔を一瞥し、二階の窓から飛び出した。
あれを食べた時の彼女の反応を見れないのが残念だが、点呼の時間が迫っている。
その足で颯爽と宿へと向かったウォンカ。



そこから先の出来事は全て彼の想像通りに動いてくれる。
点呼時間。彼はひっそりと宿近くの出入り口を見張っていた。
少しすれば、手に小さな紙を持ってトボトボと出て来るアバカスの姿。
俯く彼に気付いて貰えるよう大きく手を振れば、信じられないものを見たというような顔をして目をパチパチさせる。


借金返済と書かれた紙を掲げながら走ってきた彼の背後に、同じ小さな紙を手にして借金から解放された仲間たちが続々現れた。


皆浮かない顔をしていたが、ウォンカの存在に気が付いた瞬間、ぱっと表情を明るくさせる。
それに嬉しくなるウォンカだったが、一番大切な事を忘れてはいけない。
彼らは陰に隠れて静かに待った。もう一人の仲間を。



.

【早朝の作戦会議】→←【チョコ職人の仕込み】

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す