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【とっておきの魔法】 ページ13

「アリス、君にも使える魔法を教えてあげる」

「私にも……？」



顔を上げるアリス。
緊張感が完全に解けたのか、瞼が重たそうでとろんとしている。
きっとフィクルグルーバーにはこんな顔は見せないだろう。
自分だから見せるのだと、ほんのちょっとだけ優越感に浸った。本当にほんのちょっとだよ。



「どんな魔法……？」

「君にしか使えないとっておきの魔法だよ。とあるチョコ職人にやる気と元気と閃きを与えてくれる」



この世界をひっくり返すのに、必要な魔法さ。
御伽噺を聞かせるように、抑揚を付けて語り掛ける。
良く分かっていなさそうにこてん、と首を傾げる彼女。
でも、瞳に僅かな光が射していた。
眼前の絶景にゆるゆると頬を緩めたウォンカ。



「君の口から、一言唱えるだけでいい。でも効果は絶大なはずさ」

「なんて言えばいいの……？」

「……ウィリーって」



そう呼んでくれるだけで良い。
戸惑っている彼女は視線を一度彼から外して、しばらくしてからまた元に戻した。
唇が少しだけ開いているが、発声はされていない。
彼女の顔には困った時に良く見せるハの字の眉。
唱えてごらん？促せば、また視線が宙を彷徨って帰ってくる。それから―――



「……う、ウィリー……？」

「うん……もう一回」

「……ウィリー」

「あと、一回だけ」



躊躇いがちに紡いだ呪文は効果抜群だ。想像以上に。
身体が発光してこの暗い部屋を真昼くらい明るく出来るんじゃないか、と思えるくらいの喜びが力になる。
鈴の音のような可憐な声で呼ばれた名を、頭の中で何度も繰り返した。
ウォンカの顔は笑みを通り越してにやけ顔だ。


目の前の彼女は未だ半信半疑な顔をしている。本当に魔法が掛かっているのかと。
勿論掛かっている。が正直、そう呼んでもらいたかった、という邪な気持ちが全く無い訳じゃなかった。ほとんどゼロに近いけどね。本当だよ。



「ありがとうアリス。最高の魔法だ。君も魔術師の才能があるよ」

「そう……なの？」

「そうさ。お陰で力が漲ってきた」

「それなら……良かったけど……」



これで皆を助けられる。
アリスもポールさんもヌードルも、クリーニング屋の皆も、この街で夢を持てなくなってしまった人たちも皆。
その言葉を聞いて、彼女の瞳の輝きがまた増した。
全てが叶えば、君も自分の魔法を信じざるを得ないでしょ？



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