fancy!spicy!!sweety!!!【下】

【もし、本当に】 ページ12

「どう？聞こえる？」



アリスの耳元に唇を寄せて囁く。
なるべく心臓の音が聞こえる様に声量を絞った。
もしかしたら、何時もより鼓動のリズムが速いかもしれない。
そう思うと気恥ずかしくなってきたが、後戻りは出来なかった。
それ以上に、君が信じてくれるなら何だってしたい。



「僕、ここにいるでしょ？」



アリスが胸の中で頷いた気がする。
魔術師のようなチョコ職人が君の目の前に存在するなら、魔法だってただの夢じゃない。
全ての素敵な事は夢から始まる。
例え君がただの夢だと思っていたとしても、それは素敵な現実に変わるはず。



「アリス、君の夢を教えて」

「夢なんてなにも……」

「何かあるでしょ？小さくてもいい、何でもいいんだ。
それとも……フィクルグルーバーさんと結婚する事が君の望んだ夢だった？」

「ううん、違う」

「なら、違う景色を想像してごらん？そこに君の望むものが見えてくるはずだよ。
絶対に無理だなんて考えないで。君の頭の中の想像は、君の自由にしていいんだから」



本当は少し、怖かった。フィクルグルーバーとの結婚をもし彼女が望んていたのだとしたら……なんて考えてしまっていたから。
でもアリスは否定してくれた。
それはつまり、彼にアリスを幸せにすることは出来ないという事。
その役目はきっと……僕にしか出来ないはずだ。
決意を抱き、彼女の声に耳を澄ます。



「私……」

「うん」

「貴方になりたい」

「僕に？」



返ってきた答えは、想像と少し違っていた。
ウィリー・ウォンカになりたい、とは？
「どうして？」小さな子供に質問する様に、柔らかな声で問いを掛ける。
ちょっと間を空けて、小さな声でぽつりとその続きを呟くアリス。
力の抜けた声は眠たそうで、今にも溶けてしまいそうだった。



「私は何も出来ないから……貴方のような魔法使いになって……貴方の助けになりたい……」

「僕の……」



ゆっくりと紡がれる彼女の願い。
身体の真ん中から熱が込み上げる。ずっと改良し続けたレシピがようやく上手くいった時みたいな、弾ける様な、くすぐったい気持ち。
その気持ちが「愛おしい」と名付けられている事くらい、良く分かってる。


何も出来ないなんて嘘だ。僕は君の優しさに何度も助けられてきた。
そんな優しい君が大好きなんだよアリス。
だからこそ、君の優しさで君が傷付くようなことはあってほしくない。
その為にも君の本当の夢を取り戻す前に、まずはその夢を叶えなければ。



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