夜者 * 旅人青年とチビ少女のおはなし (ページ4)

今日:2 hit、昨日:2 hit、合計:1,215 hit

chapter3 : ……今更過ぎるんだ。ページ4

時計の針は午前３時を示す。昨日定休日だったらしいパブの中には、
当然客は一人もいない。
　ルシとリミィは二人で酒を飲んでいた。飲み始めてから結構な時間が経っていたが、
互いにあまり酔ったような顔はしていない。ただ淡々と近況やら何やらを話していた。

「にしても、あんなにちっこいのに親がいなくなっちゃったんでしょ？
　なんでメグちゃんあんなに笑ってられるの？
　まさか、お前がなにか余計なこと言ったの？」

「……何が言いたい？」

「あのコおんなじぐらいの年の子たちと比べると、なんか変だからサ」

　リミィはフフン、と笑うと、酒をくいっと喉に流し込む。

「ボク、勘だけはいいから、ルシが関わってるって予想、
　間違っちゃいないと思うんだケド、どうかな？」

つんつん。ルシの鼻の頭を得意げにつついてまた笑う。

「……やっぱお前、ウザいな」

「え？」

「その勘の良さも、話し上手なところも、情報の引き出し方の上手さも、
　俺にはないものだから余計に苛々する」

「何それ!?褒めてるの!?褒めてくれちゃってるの!?」

「ウザい」

　悪態をつくルシの顔は、若干疲れたようにも見えた。

「間違っちゃいない……かもな」

　数日前のあの日。狂気に呑まれながら肩の上でもがく少女に吐いた言葉は、
些か酷なことだったのだろうと正気になった今、思うのだ。

「何その答え方。」

「いや、謝るにも今更過ぎて気が引けてるんだ。
　酷なことを言いすぎたのかもしれないってな」

　自虐的な笑みを浮かべるルシに、リミィは奇怪な物でも見るかのような目線を向けた。

「……なーんか、やっぱお前らしくないな。もしかしてロリコンにでもなったの？
　あの仏頂面の冷血人間ルシ様が『酷なこと』だなんて」

「お前は一回地獄に落ちろ」

「酷いな！？」

「当たり前だろ」

　そんなやり取りをしていても、ルシの自虐的な表情は消えなかった。

　
　……ひどいことを、言い過ぎか、俺は。

―――――泣くなら、お前をここで殺して捨てる。
　今日の事は心の奥底に封じ込めろ。出すな。無かったこととして振るまえ。

　出していいのは、憎い“夜者”どもを消し去る時だけだ。

……と。

幼い少女の心の奥底に、悪臭を放つドロドロしたものを溜めろと。
涙にして、辛いことを流すなと。
『泣きたいなら、泣けばいい』とか『無理するな』とか
そんな言葉をかければよかったのだろうかと今更思うのだ。
ほざいたって、今更でしかないのだ。