夜者 * 旅人青年とチビ少女のおはなし (ページ2)

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chapter １ : チビと言われるのは屈辱です。ページ2

「お兄ちゃん……無視しないでよ……」

　１人の青年と1人の少女。まだ10歳かそこらの少女が、
顔が似ているわけでもない服装がボロボロな旅人らしき青年の
足にまとわりついている光景は、なんとも異様だ。
　少女の声を聞くと、青年はイラついたように少女を引き剥がす。

「お兄ちゃんと呼ぶな……と、何度言ったと思っている？」
「う～ん……とね、17回！」
「数えるなよ……」

またくっつこうとする少女を手で押さえながら、呆れたようににため息をついた。

「だって……お兄ちゃんが名前教えてくれないんだもん……」
「お前に一度も聞かれたことがないし、俺はお前の名前を知らないからな、チビ」
「チビじゃないもんっ!!」

　少女がふくれっ面をして青年を見上げる。
すると、青年の大きな手が伸びてきて、彼女の金髪をわしゃわしゃとかき混ぜた。

「……チビじゃないなら、どうしてお前は俺と喋る時に上を見上げるんだ？」
「っ……！」

　青年は意地悪に微笑むと、少女の目の高さまで屈んだ。

「逆も考えてみれば、どうして俺が屈む必要があるんだ？」
「お兄ちゃんが大きいだけだよ……」

屈まれたことが悔しいのか、少女は不機嫌な顔。
　そんな状態で暫くにらめっこしていたが、青年は観念したように苦笑した。

「わかったわかった……キャンディやるから機嫌直せ。
　もうチビって呼ばないから、お前の名前、教えてくれるか？」
「うん……。あっ、ソーダ味だっ！！」

　青年の手に乗ったキャンディを見ると、少女は琥珀色の瞳を輝かせる。

「『メグ』！僕の名前、『メグ』って言うんだ！」

　それを聞いた青年の細長い指からメグの口へと、水色の球が放り込まれる。

「俺のことは……そうだな、『ルシ』と呼んでくれ」

口の中でしゅわしゅわと泡を出すそれは、なんだかとても甘く感じた。

　人の声が飛び交う商業が盛んな港町、ライティ。
そこの中心街の路地裏にある目的地に向かい、町の入口の門から歩いて20分。
見るからに怪しげな古びた建物に、“PUB メリーさま”と記された
金属製の看板がぶら下がっていた。

「あそこ？ルシ、あそこが今日のゴール？」
「……あぁ」

　メグはほっとしたように表情を緩めた。

「ごはんも食べれる？」
「あぁ。あったかいご飯とジュース、デザート付きだ」
「やったっ！早く行こっ！」

　無邪気にはしゃぐ姿は普通の子供と何ら変わらない。
……だからこそ。

「ごめん……な」

　ルシは消えそうな声でそう呟いた。