prologue : 行ってきますって言えなかったなぁ。 ページ1
ねェ、兄さん。
なんで、悲しそうな顔、してるの?
……お前にはまだ早い?何言ってるの。僕、明日で12歳だよ?
まぁ、頼んだって教えてくれないんだろうけど。
気をつけて、行ってらっしゃい。ちゃんと暗くなる前に帰ってきてね。
夕ごはん作って、待ってるからね。
―――――あの時引き止めていたなら、兄さんは帰ってきていたのだろうか?
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突然響いた、ガラスの割れる嫌な音。
「……もう来やがったか」
目の前にいるお兄ちゃんが舌打ちをする。
お母さんが僕にチョコレート色のコートを着せた。頬にキスすると、肩に手を置く。
「どうしたの、お母さん。なんで泣いてるの?
これから何するの?下の階で……何が起きてるの?」
「……ごめんね。お母さんとお父さんじゃ、あなたを守れないの」
悲しくて、寂しそうな顔。お母さんは私に向かってただ、微笑む。
「メグ、私達はあなたと一緒に暮らすことができて本当に良かったと思ってるの。
でもね、短い間だったけど……もう、お別れなの。
これからはそのお兄ちゃんと一緒にいきなさい」
髪を少しなでられて、コートのフードを深く被せられた。
そのせいでお母さんの顔が見たいのに見れない。
お兄ちゃんに手を引かれ、お母さんの手と僕の体が離れてしまう。
「やだ……嫌だ」って言って藻掻いて抵抗したけれど、
強い力で持ち上げられ、肩の上にがっちりと担がれたからどんどん距離が離れていく。
「……娘をお願いします」
お母さんは強い声でそう言うと、部屋の鍵を開け、廊下に出た。
その姿を確認すると、お兄ちゃんは僕を担いだまま、歩き始める。
「……行くぞ」
窓の方へと歩み、そのまま飛び降りた。
落ちる瞬間、何度も聞いたはずの女の人の声で、悲痛な呻き声が聞こえた気がした。
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作者名:灯鈴 | 作成日時:2015年1月10日 14時