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こんな状態のまま、見知った街中を歩くには今の私にはとても酷な事だった。下を向いて履き慣れたヒールに目を落とす。足早に歩いていると段々詰まる息がもどかしい。早く離れたい、けれど私の足は正反対に動きを緩めた。
いつ振りだろうか、彼の名前を呼べたのは。彼以外の前で、気の赴くままに。息のように吐いていた事も今となってはただの白昼夢に過ぎない。時の流れは自分の過去、現在、未来の心情を隔離する。
ただの、一時だとしても感じたモノは全て置いて行きたかった。けれど置いて行けるほど軽くは無い事は考えずとも分かっていた。置いて行ける様な器用さは私は何処かに置いて来てしまった様だったから尚の事。矛盾する気持ちは自分への苛立ちに変わる。
どうして自分への怒りは涙へと姿を変えようとするのか、悔しさが勝ってすぐに脳に指示を出すのか。人間が持ち合わせた感情という厄介なモノは確実に人間を良いようにも悪いようにもする。いっそ無くなれば楽なのに。
何とか駅のホームまで行き着いて次の電車を待つ。一番前で暫く下を向いて息を整えて、視線を前に戻した。反対側のホームの人はこちら側より少なかった。次々と階段から人が降りてくる。電車の到着を知らせるアナウンスが聞こえたのは最初の方だけだった。
降りてくる疎らな人の中に見慣れた帽子が見えたから、咄嗟に目が向いてしまった。シルエットを探すと、それこそ正しく記憶の中に未だ在るものだった。猫背気味に細い腰、足を擦り気味に歩くのも、結び付くのは記憶の全て。守りたいと切に願った全て。
私が立つ場所と向かい側に、一番前に並んで下を向いてスマホをいじる姿が見えた。
どうか前を向かないでと願い、視線をそのままにしていると不意に上げられた顔から、目から、全てが私に向かうのが分かった。
表情を読み取るよりも前に私が乗る電車はホームに到着した。慌てて乗り込んだ反対側のドアの窓越しに覗き込んだ時にはもう影は無かった。
それが何を示しているのか、私は期待してしまうから
早くドアが閉まれと強く念じて、目を閉じた。そしてドアが閉まる音と同時に目を開いて、動く電車に安堵した。さっきまで私が立っていたホームを見る事など、出来なかった。
最初から行き先が違う電車に乗る事など、分かっていたのに。私が間違えて乗ってしまったから、途中下車して反対方向の電車に乗り換えただけの事。
たったそれだけの事なのだ。
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：絹(プロフ) - みなさん» ありがとうございます〜(/ _ ; ) 期待に応えられるようにがんばります◯ (2019年8月4日 0時) (
レス) id: c52fa03a53 (このIDを非表示/違反報告)
みな(プロフ) - 何回読み直しても飽きないです^_^ (2019年8月2日 1時) (レス) id: fa95af4103 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新待ってました！ (2019年6月22日 16時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
リリー(プロフ) - 更新していただきありがとうございます！ずっと待ってました！ (2019年3月7日 11時) (レス) id: 203fcc8e94 (このIDを非表示/違反報告)
さやめめ(プロフ) - 私もとてもショックを受けましたが、またこうして更新をしていただき有難いです。とても楽しみにしていました、これからも応援しています。 (2018年12月1日 15時) (レス) id: 0eff97111c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：絹
| 作成日時：2018年4月2日 19時
