家の華 ページ3
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「…妻とは家の中ではどのような存在なんだ」
「米内の話を真に受けているのか」
「いや、もう上からも再三言われていたし、見合いの席も用意された」
横須賀基地に戻った翌、オス田に呼ばれ彼の家を訪ねると悩みの種であった奥方が淑やかに私を招き入れた。茶に菓子にともてなされた後はごゆっくりと彼女はまた淑やかに引っ込んでいった。あれが成人したばかりの娘の振る舞いとは到底思えないが、世の奥方はみなああなのだろうか。
オス田と今後の軍備や陸軍との兼ね合い、諸々を数刻話したのちに一息吐いた私は思わず気になっていたことを口にした。驚いたように私を見やったオス田は初めてではないか？と饅頭の包みを剥がしながら私の話を聞いたのち、くつくつと喉を震わせて笑ったのだ。
盟友にこれ程笑われたのはまたと無く、いやに楽しげに笑うものだからぐっと眉間に皺を寄せるとふっ、く、と噛み殺したような笑いが漏れる。
ざっくりと彼に昨日の米内に押し付けられた見合い話を説明すれば可笑しそうに笑った後写真も持ってるんやろ？見してや、と故郷の訛りでケラケラと饅頭を頬張る。楽しい事にはとことん首を突っ込みたがる彼のヘキだ。懐から取り出した昨日の薄皮を開き写真を見せるように机の上で彼の元に寄せるとまじまじとそれを見つめたオス田はお高そうなお嬢さんやな、と零す。まぁ確かに、品のいい姿勢や召し物はそうだろうが、そこではない。
「……これは十七と見た」
「なぁぁ…ほんまに断れんか？」
「無理やろうなぁ。買われてのご指名だろうし、お前がしゃんとせな」
無慈悲にもそう言い放ったオス田に肩を落としん、と写真を見やる。オス田は気付いたように薄皮に包み直すとでもなぁ、と息を吐くかのようにそう呟きながら私にそれを返した。
家の華やで、嫁さんは。
しっとりとそう言ったオス田は私のところもなぁ、十五の時はビクビクしていたが今じゃあんなだ、と。奥の縁側に腰掛け微かに鼻歌を唄いながら編み物をしている奥方の姿が見える。淑やかでありながら逞しくも見える彼女は、十五で嫁いできたとは思えない程しっかりと伴侶の肩書きを背負い生きているようにも見えた。
家に帰らんとって思えるようになるで。やから山茂もちゃんと愛して、ちゃんと支えてあげるんやで。
オス田のその言葉は妙に深く、胸に刻まれたのであった。
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