魔法と思春期 skab (ページ42)

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「ねえねえ阿部ちゃん、同じ寮にヤベエ奴いるんだぁ」

入学して間も無かった頃。
食堂で顔を合わせたふっかが、突然そう切り出してくるものだから、俺は焦ってしまった。
まさか俺と同じように、ふっかまで誰かにイジメられたのか、と。
ハッフルパフには平和主義者が多いと聞いていたのに、もしそうであったとしたら、さすがにヘラヘラと笑って見過ごすわけにはいけない。
そんなことを考えながら、ふっかからの言葉を待った。
寝起きのぽやぽやとした雰囲気を纏いながら、後頭部に残る寝癖ごとガシガシと髪をかきあげるふっかは、えっとねぇ、とこれまたのんびりした口調でことの真相を話し始めた。

結論から言えば、俺の心配は杞憂だった。
なんでも、転入してきたふっかのことを酷く気に入ってしまった後輩がいるようで、

「こーじって奴に、なんでか分かんないんだけど、めちゃくちゃ懐かれてんの」

そう言ってぷっくりした唇を尖らせ、鬱陶しそうな表情を作っている。
でもその横顔は何だか嬉しそうで、たぶん本人が口にするほど嫌がっている感じではない。
ふっかとは長年一緒にいるのだ。
あー、これは単純に照れてんだな、とすぐに分かった。

だからめめが俺たちに康二を紹介した時、すでに顔見知りだった二人の

「ふっかさーん」
「げ、んだよお前かよぉ」

という慣れたやりとりを間近で見て「ああ、この子が例のこーじなんだ」と知り、俺まで嬉しくなってしまった。

三人も友人が増えたおかげで、周りが一気に賑やかになる。
向こうの学校でもこんなに騒がしかった事はなかった。
たまに会話を拾いきれず、愛想笑いで誤魔化してその場をやり過ごそうとすると、目ざとく気が付いた康二に「もー！阿部ちゃんもちゃんと聞いとってやー」と頬を膨らませながら拗ねられる。
大変だなぁと思う事はあるけれど、ふっかとは同級生でいられるし、他の三人も明るくて優しくて居心地がいいこの感じは、もちろん嫌いじゃない。

そもそもふっかとは、住んでいた場所も、年齢も、当然学校や学年だって違ったのだ。
同じ学校に通うという選択肢が無かったわけではない。
ふっかにも、それから養成所の人たちにも「芸能コースのある学校に進学した方が後々楽だよ」と中学三年の時にアドバイスをもらっていた。
だけど俺が選んだのは、偏差値が高めの公立高校。
もちろん芸能コースなんてない。
周りが驚くなか、ふっかだけはいつもみたいに

「阿部ちゃんらしいね」

なんて笑ってくれていた。