魔法と思春期 skab (ページ5)

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なんじゃそりゃ！と自暴自棄気味に叫んで両手足を投げ出した阿部ちゃんが俺にもたれかかってくる。
癖っ毛の前髪が揺れて、その隙間から切れ長の瞳がうらめしそうにこちらを覗いていた。
慰めるように、もたれかかった側の腕を伸ばして華奢な肩をトントンと叩いてやる。

「ふっか、寮変わってよ」
「嫌だね。ってか無理でしょ」
「ぶう」
そう言って頬を膨らませる仕草は阿部ちゃんっぽくて可愛らしいけど、それはあくまでも今俺と一緒にいるからどうにか見せることが出来ている態度なんだろう。多分たいぶ強がっている。
だって、さっき階段を上がって目に飛び込んできた時の阿部ちゃんの顔、もう結構無理してるなって感じだったもん。

「阿部ちゃん」
「んー？」
俺にされるがまま肩を叩かれ、鼻先を小さく動かしながら眠たそうにゆっくりと瞬きをした阿部ちゃんの視線がこちらを向くことはない。
「校長先生に掛け合ってみない？」
「無理でしょ」
「なんで」
「なんか魔法界のルールって複雑らしいよ」
そう言った阿部ちゃんの口調は穏やかで、どこか他人事のようにも聞こえた。

「俺たちが思っているよりも、こっちの世界は色々と『縛り』だらけなんだって。
校長はこの学校だけじゃなく、魔法界でもかなりの地位にいるはずなのに、組み分け帽子みたいな特異物が下した決定はそう簡単に覆せないんだって」
笑っちゃうよね、とちっとも楽しそうじゃない声で阿部ちゃんが遠くを見ながら言う。

「だとしてもさ、よりにもよってマグル出身の阿部ちゃんが学校初のレアケースになる必要はなくない？」
「それはマジで思う」
勢いよくこっちを見上げてきた阿部ちゃんと視線が合った。
理不尽な待遇を受けた原因が分かったことで、少なくとも変な緊張感からは解放されたように見えたものの、
ただそれを納得しているかどうかは別問題だ。むしろ不当な理由を知り、不服そうに「何で俺が」と顔を歪めている。
それでもさっきまでの表情と比べれば、ずいぶんとマシになった。
阿部ちゃんの膨らんだ頬を指先でつつきながら、俺はもう一度聞いてみる。

「マジで校長に掛け合わなくて良いんだ」
「うん、無駄だから」
阿部ちゃんはしっかりとした口調でそう答えた。

「解決策は見つかりそう？」
「まあ俺自身に問題があるわけじゃないって分かったし…うん、大丈夫でしょ」

案外薄っぺらい理由だし、なんて吐き捨てるようにぼそりと呟いた阿部ちゃんに苦笑する。