冬の匂いに包まれて【雪】 (ページ26)

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いつもより数段賑やかなお店の中を、
キッチンにいる店長から渡されたジョッキをこぼれないように数個抱えて運ぶ。

今日はサラリーマンの方にとっては、華の金曜日。

一週間のストレスがそのままダイレクトにお酒へと発散されるのだろうか。
なかなかいい感じで酔ってるおじさん方。

“お待たせしました！”と一言大きめの声で叫べば、待ってましたと嬉しそうに顔を上げる。

そして、店員が女の子だと分かるとあからさまに変わる空気。

あぁ、やだな。
慣れたつもりでもやっぱり気分は悪い。

にやにや刺さる視線に気付かないフリをして、テーブルにジョッキを並べる。

「おねぇちゃん、べっぴんさんだねぇ」

『あはは、そんなことないですよ～！あ、お食事の追加承りますね！』

グループの1人から、追加の注文をとっている最中も途切れない質問の嵐。

“いくつ？大学生？肌もハリがあるもんなぁ！！”ってガハガハ笑ってる。

なにがそんなおもしろいのか。
テカったおでこが気持ち悪い。

『注文は以上でよろしいですか？』

「あ、お姉ちゃんまって！これもどうしようかなぁ」

1人がメニューを覗き込んでまた悩みだす。
注文してくれるのはありがたいけど、できれば早く離れたいなぁ

顔に出さないように口の端に力をいれて待っていれば。

『っ、！』

しれっと伸びてきた手が私のおしりをなぞる。

“お？こっちもハリあるぞ！”って、ガハガハまた笑ってる。
居酒屋で働いていれば、こういう事もないわけではない。

適当に流して、早く立ち去ろうとしたいのに
その手はなかなか離れず、あろうことかぎゅっと指に力が加えられた。

『っ、あのっ！』

さすがに嫌悪感が勝ってしまって、思わず大きな声がでてしまった。

あ、やばい。

「あ？なんだよ、客に向かってその態度はよ」

『いえ……。申し訳ございません』

「口コミに書いてもいいんだぞ？ここの店員は接客がなってないって」

なんで、そこまで言われなくちゃいけないの。

言い返したくても私のせいでお店に迷惑をかけることはしたくない。

くやしくて、腰のエプロンをぎゅっと握ることしかできなかった。