てるてるぼうずの恋。 ページ2
雨音がただ響く白い病室に、ぼくときみは居る。水の音。雷の音も時々聞こえる。
ちょうど正面にいるきみ ―― 彼女には時間がない。
多忙だとか、ルーズな性格をしているとかそういう理由ではなくて、ただ単純に、この世界にいることのできる時間が残されていないからだ。
彼女は、病気だ。
ぼくには詳しいことが判らないし、お医者さんにもよく判らない、何億人に一人のひとが罹るか罹らないか、って病気。
彼女はそれに独りで闘いを挑んでいた。
だけどもう、それもすぐに終了の音を鳴らす。
今もずっと闘い続けるきみの身体はぼろぼろで、少し触れたら乾いた小枝みたいに折れてしまいそうだった。
「私、あと何回この景色が見れるのかな。」
きみは窓から見える雫が遠く下に落ちていくのを見ながらそう呟く。
「大丈夫、梅雨だからまた何度でも見れるよ。」
苦し紛れに、そう答える。
ぼくが彼女に残った日にちの数を知ったのも、こんな日だった。
空からの雫が何かを奪いさっていくみたいに強く降ってきて、ぼくはきみが今日にでもなくなってしまうんじゃないか、って怖くてこわくて仕方がなかった。
きみは雨の日が大好きで、よくこんな日にわざわざ外出してた。
絶対に風邪を引くからやめた方がいい、って言ったのに、きみは相変わらず人の話を聞かないで出ていったよね。そしてまんまと風邪を引く。だから言ったのに、って言いながら結局ぼくは何度もきみの看病をする羽目になったんだ。
覚えてるかい、と聞くと、忘れる理由ないでしょ、あのときは五日間も熱が続いたんだからと言われた。
「でもそのあと時雨に移しちゃったのよね、私。」
そう言えばそうだった。
それでこのままだと連鎖が続きかねないから看病はいい、って言ったら本当にきみは来なかった。少しだけ、期待してたのに。
「今度ぼくが風邪を引いたら看病してくれるかい？」
「ええ、もちろん。ま、そのときまで生きていられたら、だけど。」
そう言って彼女は自嘲気味に笑ってみせた。
ふと見たとき、窓の外に赤い傘の花が一輪、咲いていた。
「またあの赤い傘、差して二人で歩きたいな。」
彼女が元気だったときはよく二人で紅の傘を差して街を歩いた。
最初は彼女が一人でやっていたことだったけど、そのうちぼくも付き合うようになった。
何が楽しいのかさっばりだったけど、彼女の隣に居られることが嬉しかった。
「お出かけする日、雨降りだといいな。」
きみのその言葉が、お天気の神さまに届きますように。
(雨を願うときは)
(さかさまのてるてるぼうずを。)
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作者名：滴空 | 作者ホームページ：https://twitter.com/ha_lu_06
作成日時：2017年3月2日 0時
