初恋キラー実弥警官【鬼滅の刃】

42-息遣い ページ42

.





男が刃物を地面に落としてこちらへ走り寄る。

年を取った証の目を囲む皴は精神的な疲れを表しているようで。





「ッいや…！」

『おい、A！ 大丈夫かァ！？』

「恋人か…！ 警察には連絡するなよ！」

『……テメェ、何が目的だァ
Aを傷つけたら許さねェぞ』




ブレザーのポケットから携帯を取り出され、男の手で奪われる。
実弥の声は遠くなり、同時に彼の声が一転してきつく鋭くなったのがわかる。




「この子には恨みはない。私が会いたいのはこの子の父親だからな…！」

『……お前、横井事務次官とどんな関係、』




実弥の怒号は、男の一押しで途絶えた。
そして男は、通話終了を教える画面の携帯を私に返すと、縛っていた手の拘束を外す。




「私の父と……どんな関係、なんですか…」

「今朝のニュース、知っているだろう」

「……」

「あの秘書は、私の元妻だ」




あぁ、そうか。私はどこか冷静な気持ちで目の前の男性の靴を眺めていた。
この人は、私に恨みがあるんじゃなくて、私越しに、パパを見ていたんだ。

大切な人を、私の父に奪われて、とてつもなく悔しくて悲しいんだ。




「君に手を上げるつもりはないが、この様子を君の父が見れば、このことを一生後悔するだろうな」

「……父は、そんな人情深い人じゃ、ありません」

「何？」

「私に干渉しなかったし、ずっと一人でいました。
きっとあの人は、私がどうなったって、貴方の思うように悲しんだりなんか、……しません」




ローファーに映る影が揺らいだ。
静まり返った倉庫に、老年の咳払いが反響して、後に掠れた声が続く。




「父親がそうだとして……母親は、どうなんだ」

「…ママも、多分。心配なんて、してくれないと思います」




私を人質に取ったのは、間違いでしたね。
目の前の男性の顔が見られなかった。

明らかに動揺した空気が伝わってくる。



男性がまた何かを口にしようとした時、私の携帯から大音量で着信音が鳴った。




「ッ、」

「誰だ！？」




画面に表示されたのは、さっきまで声を聞いていた筈の、大好きな人。

男性は私の顔と携帯を繰り返し見比べて、出ろ、と合図した。




『A！ そこから出来るだけデケェ声出せ！』

「……ッえ」

「何…？ 駄目だ！」




戸惑っている間に、目の前の男性に携帯をまた奪われてしまう。
だけど、もしかして。電話越しに聞こえた、息遣いは。あれは。




「……実弥ッッ！！」




.

43-終着→←41-誘拐

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す