初恋キラー実弥警官【鬼滅の刃】

39-知らない親 ページ39

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怖い時、私はいつもママの名前を呼んでいた。
中学受験の時も、高校受験の時も。

だけど、今は別の人の名前を呼んでいる。





「……お勉強がよくできて、ママの言う通りにして、良い大学に行くのが、ママの望む良い子？」

「A」

「ママの言いなりで、好きな人にも会えず、ママの言う人と付き合って結婚して暮らすのが良い子なの…？」





ママが怖くて一度も反抗なんて出来なかった。
だけど、今日は。今日からは。





「…私は、勉強よりも、良い大学に行くよりも、ずっと前から夢があるの…！
それに、もうママに着いて行かなくたって、自分で道を選んでいく！」

「…A、待ちなさい！」

「これ以上話すことなんて無い！」





「A！」三度目のママの金切り声の直後、滅多に開かれる事の無かった、2階の奥の部屋の扉が開いた。

吹き抜けの一軒家は、その合図を皮切りにぴたりと音を殺した。





「……何だ、騒がしい」





階段の1段目を上がった私も、それを止めるママも、動けなかった。


…………パパ、だ。
久しぶりに、パパと顔を合わせた。
テレビ越しに見えていた爽やかな雰囲気は死に、冷たく厳しい顔で私たちを見下ろしている。





「親子で喧嘩なんて見苦しい。
…A。母親の言う事は聞け」

「……何、それ」

「…それから、お前」

「……っ、」

「耳障りな声が響く。仕事に集中できん。…これだから女は……」





一緒に過ごしていた筈なのに、まるで私たちを他人のように蔑視している、その冷徹な眼差し。

どこか苛立った表情でスリッパを鳴らし階段を降りてきたパパに、泣きそうな顔してママが駆け寄っていく。





「あ、あなた…ごめんなさい、私……」

「子供の帰りが遅くなった位で騒ぐな」





あれだけ憎らしいママは、そのママよりも憎いパパに嫌われまいと必死にごまをすっている。
その光景が何より馬鹿らしくて、私は音を立てて階段を品なく上った。





「あなた、今日は……」

「まだ仕事が残ってる。後にしろ」





上りきってすぐに聞こえた1階での会話。
舌を見るとパパがティーカップを片手に階段を上ってきているのが見えて、パパを見つめたまま私の体は動かなくなった。


何か話さなきゃ。何か言われるかも。

そんな不安と緊張を胸にパパが階段を上り切るのを待っていたのに、パパは私に見向きもせずに横を通り過ぎて行った。





その時、ふわりと香った、知らない女性ものの香水の匂い。





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