初恋キラー実弥警官【鬼滅の刃】

25-*紛失届 ページ25

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　午後の息抜きの甘ったるいおしるこ缶を啜りながら椅子で船を漕いでいると、玄弥のデスクに広がった新聞越しに中年の男と目が合った。


横井代表。この国の10本の指に入る男。
財政面で確か一番のお偉いだった筈だ。
紙面一杯に、モノクロで、むさ苦しい男達が並んだ写真が貼られている。


　その中でもこの横井事務次官だけは、大人びた顔をして整った顔をカメラに向けて微笑している。





「先輩、新聞見ます？」

「いや」





特別目立った席にいる訳でも無い。
だがこの男に目を向けるのは、昨日彼奴を家に送ったからだ。


やけに土地を使ったでかい家に停まっていた車は地上から一段下がった所に大事そうに仕舞われていた。
　そして何より、表札の"横井"という名字。


彼奴には聞かなかったが、流石に察した。
前にAが言っていた成績の事や親への反発心も。





「そろそろ巡回の時間ですよ」

「あァ」





時刻は午後3時を過ぎた所だ。近くの学校のチャイムが鳴ったのを新聞越しに確認する。

おしるこを全て飲み干して体が温まった所で重い腰を上げてズボンのポケットに手を突っ込んだ。



　チャリの鍵が無ェ。
車に置きっぱなしだったか？





「行ってらっしゃーい！」

「おォー」





ぶんぶんと手を振る玄弥に適当に手を振り返して、駐車場まで歩きマイカーを解錠する。





「うーっ…寒ィ……」





どれだけ着込もうが容赦なく入ってくる冷気に指がうまく動かねェ。
ダッシュボードを開けて見つけたチャリキーをかじかむ指で摘んだ時、震えて助手席のシートの下に落とした。





「チッ…面倒くせェ」





ただでさえ寒いってのに何で無駄な労力を自分で増やしたんだ俺は。阿保か。

舌打ちをそのままに、車に身を半分乗り込んで助手席に手を伸ばす。


鍵が指先に当たる感覚がして引き抜いたが、同時に何か別のものも下から転がってきた。





「……何だァ？」





視覚で確認したそれを手に取る。
チューブ型の白い化粧品。

裏を見ると、名称説明欄にハンドクリームと書いてあった。
俺はこんなモン使わないし、第一助手席には滅多に人を乗せねェ。





「あいつかィ」





紛失届は出てねェがきっと被害者は困ってるに違いない。
丁度良い機会だ。これで誰からの疑いも無く彼奴を引き止められる訳だ。


花の香りのするそれをポケットに入れて、今度こそ俺は自転車の鍵を手に取って駐輪場へ向かった。





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