第20夜 ページ20
.
｢…志麻の記憶、というか意識を、元の志麻の体に戻すことはできるんですか？｣
次に気になっていた疑問を口に出す。
記憶が戻ったとしても体が戻れないんだったら、私たちが住んでいるところで暮らせる可能性は低いだろう。
｢あー……、うん、できるで｣
できる、と言う坂田さんの顔はどことなくぎこちなく、視線が明後日の方向へと向いている。
あからさますぎる怪しさに嘘つけなさそうな人だな、なんて考えた。
｢……本当、ですか？｣
｢____あー、理論上ではできる、けどやったことあらへんから、保証はできへん、って感じ？｣
逆にどんな計算をしたら意識を移動させる、なんてこと理論上でもできるようになるんだろう。
しかし、少しでも意識を戻せることが分かったなら、自分もある程度安心することができる。
____安心からか、私はぼんやりと眠気を感じた。
でもその眠気は不自然で、暗闇の中に意識が引っ張り落とされていくような、そんな、感覚。
頭が回らない。
視界がぼやける。
坂田さんの声が、どんどん遠くなっていく。
｢せやから_____実験しようと思って｣
今、なんて？
回らない頭を必死に回し、坂田さんの言葉の意味を噛み砕いていく。
｢最終的にはまーしぃのためなんやから、協力してくれるやんな？｣
そう言う坂田さんの声はひどく冷たく、先程の声との温度差にまるで別人なんじゃないかと思ってしまう。
｢うらさんのこれ、邪魔やなあって思ってて。……でも、外から干渉できないなら中から干渉したらええやん、って思ったんよね〜｣
カチャリと、まるで主張するかのようにティーカップの音が鼓膜に届く。
あ、紅茶に何か盛られたんだ、とようやく理解した。
さすがにそこまで加護が行き届いているわけもなく、私の体を今も蝕んでいく。
手足に力が入らない。
声を出すにも、はくはくと空気しか出てこない。
｢ごめんな、ちょっとだけやから｣
坂田さんの言葉を最後に、私の意識は途切れた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1107人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
クロナ - 涙目になりながら読ませて頂きました。とても面白い話でした！ (2019年1月23日 0時) (
レス) id: 95383b2889 (このIDを非表示/違反報告)
心愛 - とてもよっかたです！夢主ちゃんと四人が再会するお話とかその後話が欲しいです！ (2018年11月27日 21時) (レス) id: 1b1d47c664 (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - ゆづきさん» コメントありがとうございます、まだまだ拙い文ですがそう言っていただけて感無量です…！閲覧ありがとうございました！ (2018年10月31日 7時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - つぼみさん» コメントありがとうございます、少しでも作品の雰囲気を楽しんでいただけでとても嬉しいです！期待に応えられるよう頑張ります！！ (2018年10月31日 7時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
ゆづき - 感動した。ただその一言です！愛が感じられるとても素敵な作品でした！ (2018年10月30日 18時) (レス) id: 5ea47c424e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：史緒 | 作成日時：2018年10月3日 23時
