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「……キスしか、しないって言った」
「キスしかしてないでしょ?あんな軽いバードキスだけとは誰も言ってないけど」
すっかり力が抜けてしまった体を浦田くんに引っ張り上げてもらいながらなんとか起こす。
悪態をつく私に浦田くんは悪戯に笑っている。
悔しさを感じながら窓の外を見るとすっかり暗くなっていて、いつも帰る時間より遅くなっていることに気が付いた。
浦田くんと裏口から出た後、お互い方向が別々なためそこで別れる。
送っていく、と言われたけど私はそれはいい、と必死に拒否して、なんとか別々に帰ることに成功した。
だってこんな光景、センラが見たら____
そう考えたところで、ふと頭と思考を同時に止める。
何で今、センラが頭に思い浮かんだんだろう。
昨日あんなことをされて意識してるとか?センラに変な誤解を与えたくないから?
ほんの少しの、小さな疑問。
しかしそれは消えることなく、解決することもなく私の心に居座り続ける。
もやもやとした感情を抱きすっかり自分の世界に没入していた……が、突然聞こえたクラクション音で現実に引き戻される。
反射的に後ろを振り向くと、見慣れたセンラの車がすぐ側に停まっていた。
「なにぼーっとしてるん、さっさと乗りや」
「え、でも、」
「はいなんでもええから乗る!こんな遅い時間に女の子1人で歩かせるわけにいかんやろ!」
静かな夜道にセンラの特徴的な声が響く。
どうやらセンラとしては私をどうしても1人で帰らせたくないらしく、このまま私が乗らなければクラクションを連打してもおかしくない。
それはさすがに他の家の人に迷惑だと思い、戸惑いながら乗り込む。
来ると、思っていなかった。
昨日いきなりとはいえセンラから逃げるような行動をとってしまい、それからは一言も話していなかったから。
気まずさから今日はきっと来ないだろうと思っていたのに、何も変わらない様子で迎えに来てくれるセンラは優しいな、なんて思う。
「……そんな隙あらば食うって訳やないんやからさ、もっといつも通りにしてや」
センラは私を見ずに告げる。
それでも私から見たセンラの横顔は、少し悲しそうだった。
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瑠璃色(プロフ) - コメント失礼します!すごい甘くて溶けそうでした…楽しく読ませていただきました! (2020年1月22日 4時) (レス) id: c270fd437e (このIDを非表示/違反報告)
夏乃(プロフ) - コメント失礼致します! とてもドキドキしながら作品を読まさせて頂きました!メンバーそれぞれのお話もワクワクドキドキでした!お話の途中からまさか4人は裏で繋がっていたりして…!と予想したりしていて楽しかったです! (2018年10月5日 3時) (レス) id: 18d0eaa0c8 (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - maikanoさん» コメントありがとうございます!各ルートはいつか形にしたいなとは思ってるので気長にお待ちください!maikanoさんが少しでもドキドキできるようなお話を届けられて良かったです、見ていただきありがとうございました! (2018年10月4日 0時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
史緒(プロフ) - 瀬菜(せな)さん» わーありがとうございます!何とか完結できて良かったです…!!新作公開しましたのでお時間ある時にでもよかったら除いてやってくださいー! (2018年10月4日 0時) (レス) id: 5df9928a5a (このIDを非表示/違反報告)
maikano - とても面白かったです!欲を言うと全ルートみたいですね…(全員から愛されるルートとか、うらたんルートとか…)読んでてすごくドキドキしてものすごくよかったです! (2018年10月3日 15時) (レス) id: f3f6e9dc4d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:史緒 | 作成日時:2018年9月10日 22時