三度の飯も君もすき【d!短編】 (ページ5)

今日:1 hit、昨日:0 hit、合計:8,170 hit

続きページ5

やっぱり顔つきが似ていると思ったがそれだけで、何かある訳でもなく他愛のない話を三人で交わして彼は呼ばれていった。

｢従兄弟でも顔って似るんだね｣
｢んー？悪くないでしょ？｣
木の蔭で西瓜を食べながらぼんやりと交わす。返事が質問に呼応しているかはともかくとして、確かに面白そうなひとだと思う。それを言うと友人はにやにやしながらふうん、とやけに思わせぶりな相槌を打つのだった。

御手洗から戻ろうとしたところ、玄関のあたりに1匹の大型犬がいた。黒色混じりの雑種っぽい子。
初めて見る私にも擦り寄ってくるので相当人懐こいのだろう。しゃがみこんで頭を撫でる。

｢そいつかわええやろ、わさびって名前なんだけど。口ん中ザリガニの臭いすんねん｣

｢へ？｣

不意に影が差したので頭を上げると、件の吊目と目が合う。
そのまま隣にすっとしゃがみ込んだ“シャオちゃん”をめがけてそのわさびが突進した。押し倒されてべろべろ顔を舐められながら、うわ、なにすんねんやめろやと彼は笑う。
ひと通り終わると彼はしゃがみなおし、ポケットから取り出した紺色のハンカチで顔を拭った。
やっぱザリガニやわ、という呟きと共に。

｢えぇと、ごめんなんて名前やったっけ。犬飼ってたりする？｣
無造作にわさびを撫でつつ、彼は私を覗き込んだ。

うちには二匹のダックスフンドがいて、そしてその子たちも生臭い。
それを名前とともに伝えれば｢やっぱするよなこの臭い｣とまた笑った。

なんでもない会話をしながら、ふと思う。

｢シャオさん？は、戻らなくて良いんですか？｣
｢あー、平気。というか今戻ったら怒られんねん。料理しとるから。｣
｢料理してると帰れないんですか？｣
そう聞けば少し困った顔をしながら、俺、料理禁止やねん…と答えた。
｢いやもう料理がヘタクソー言うてキッチン入れてもらえなくて…｣
｢キッチン立ち入り禁止レベルなんですか…｣
面白いな、この人。そう思っているとシャオさんが急に真顔に戻った。

｢あの、さ。そっちは戻らんくて大丈夫なん？｣
｢…まあ、お腹いっぱいになっちゃったので。｣
シャオさんが気になるのでもうちょっと話していたくて、というのはまあ言えないわけで。
｢邪魔だったら戻るんですけど…｣
｢あ、いや。そんな訳じゃなくて。｣

｢…えーと、そんなら今から抜け出して海行かへん？二人で。｣

海に行きたかったのは、彼と会いたかったからかもしれない。
立ち上がって差し出された手を、そっと握った。