標的18 ページ20
「うぅ〜〜〜。セツちゃん、だから言ったのにぃ！」
「ご、ごめん……まさかこんな重労働なことを頼んでくるとは思わなくて……」
私達しかいない図書室。他の生徒はみな授業に出ていていない。
誰かに頼もうにも私はそんな知り合いなんていないし、セツちゃんも他の人と話している姿は見たことがない。
兄達は論外。ただでさえ勉強がイマイチなのだから頑張ってほしい。
「この本どこだっけ？」
「た、確かそれはあそこの棚です」
「ほう。じゃあこれは」
「それは……そこ」
「んじゃあこの本は」
「それは新刊ですから目立つところに置きましょう」
なんて会話をしながらやる事、1時間。ようやく終わりがみえてきたってところで「頑張ってるね」という生徒会長の声が聞こえた。
ビクゥっと肩が揺れる。ま、まだ片付けは終わってない。怒られる、咬み殺されるっ！！
「沢田珠代、そんなに震えなくて大丈夫。今はただ様子見に来ただけ。へえ……あと少しで終わるじゃん」
君達に任せて正解だった、と笑みを浮かべる生徒会長にセツちゃんは「いえ…」と目をそらす。その表情は少し赤くなっていた。
確かに彼女が笑うと周りに花が咲いた幻覚を見るほどに美しく可愛い。さすが風紀委員長の姉。目付きは鋭いが雰囲気は彼よりも柔らかく接しやすい。
けれど……私は違う。お姉ちゃんを思わせるような言動をする彼女にどう接していいかわからない。ただ、セツちゃんの後ろに隠れて身を潜めてるだけ。
「うん。残りも頑張って。……これなら早く雑用を頼めばよかったな……」
ブツブツと言いながら生徒会長は去っていった。ほっ、と息を吐けば「褒めてもらったねー」とセツちゃんは笑う。
「そ、ですね」
「いやはや生徒会長の笑顔は凡人の私らにとって効果抜群だわ。もう崇めてもいい」
「……そ、そういえば彼女の隠れファンクラブがあるって聞いたことがある気がします」
「え？それ本当？すげ〜〜〜」
やっぱ生徒会長は凄いわなぁと頷いているセツちゃんにダンボールに入っている数冊ある内の本を渡す。
「セツちゃん。片付け、しましょう！」
この片付けは元はと言えばこれはセツちゃんが蒔いた種だ。彼女には積極的に片付けてもらわなくては。
セツちゃんは苦笑を浮かべ、そうだねーと本を受け取った。そして放課後になる頃は全てが片付き、空の段ボール箱がいくつも重ねられてあった。
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