生きるスマホ。‐the smart story‐

メル ページ9

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「あの子、誰だっけ？」


声の発生源は、太郎の手元からだ。


「隣に住んでる子。まったく、メルは本当にすぐに忘れるな」


「ふーん」


「いい子だよ、すごく」


「ふーん」


「お前はふーんしか言えないのか……」


太郎と受け答えしているのは、太郎の生きるスマホ、メルだ。


Aと同じ手法でダウンロードさせられ、今に至る。


メルとワイノの違いは、メルは人型である、ということだ。


そして、ワイノよりずっと大人しい。


「太郎も早くああいう彼女作りなよ」


「大きなお世話だ」


太郎には、なぜかまったくと言っていいほど女運がない。


気の合う女性がなかなかいないのだ。だから、必然的に彼女もいた試しがない。


そんなことを嘆いているところに、メルがやって来た。


なので、太郎はメルにカツラをかぶせると、時々彼女代わりに使うことがあった。


メルは綺麗な顔立ちだから、友達に見栄を張れる。


「本当は僕は、男だっていうのに」


「まぁまぁ、もうちょっとだけだからさ、協力してよ」


「頼むから、早く彼女、作ってくれよな」


これはメルの、心の底からの切なる願いだった。

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